日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG46] 北極域の科学

2023年5月24日(水) 15:30 〜 16:45 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:両角 友喜(国立環境研究所)、島田 利元(宇宙航空研究開発機構)、堀 正岳(東京大学大気海洋研究所)、川上 達也(北海道大学)、座長:堀 正岳(東京大学大気海洋研究所)、両角 友喜(国立環境研究所)

15:45 〜 16:00

[ACG46-12] InSARによるアラスカ北部プルドー湾周辺の凍土変動に伴う地表変位の検出

*近田 茉莉花1古屋 正人2 (1.北海道大学理学院、2.北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

キーワード:永久凍土、干渉合成開口レーダー、サーモカルスト地形

近年、地球では温暖化による気候変動が進行している。なかでも北極域は地球雪氷圏であり地球のなかでも温暖化の影響を強く受ける地域で、北極域に分布している永久凍土帯においては、温暖化の進行に伴う凍結期間の減少や融解深の増加が観測されている。永久凍土の上に存在する活動層は夏に融解、冬に再凍結を繰り返している。含氷率の高い凍土帯で温暖化がさらに進むと夏季の気温が上がり、活動層が融解する際にその下の氷まで融けて流出することにより体積が減少し地面が沈降する。これにより形成される凸凹とした地形はサーモカルスト地形と呼ばれる。永久凍土が分布する地域ではこれら活動層の上に住居などの生活基盤が建設されているため、地面の沈降は地上の構造物の破損や倒壊につながるおそれがある。本研究で取り上げるアラスカ北部プルドー湾周辺地域は、連続的永久凍土帯で、永久凍土が広く分布しており、上述した地面の融解沈降による凸凹とした地形が広がっている。地表の変動は年間数㎝程度の小さなものだが、凍土中に大きな氷が存在する場所ならば変動が起こり得るため、地表変位は数十km四方以上の非常に広い範囲で観測する必要があるが、凍土の変動を直接定量的に観測することは難しい。そのため凍土変動に伴うこれらの地表変位をとらえるため、現地における観測のほかに人工衛星を用いた画像解析が近年注目されている。この技術が本研究の研究手法となる干渉合成開口レーダー(Interferometric Synthetic Aperture Radar:InSAR)である。二つの時期に同じ場所を撮影した2枚の画像から「干渉画像」と呼ばれる画像を作成し、二時期の間に起こった地表変位を検出する。Liu et al., (2014)では、地上観測とInSAR技術を用いて、アラスカ北部プルドー湾周辺地域におけるサーモカルスト地形に水が溜まったのちに排水されてできる排水サーモカルスト湖盆地のひとつに注目し、地表の動態の定量化と地表付近の氷の量の推定を行っている。その際、2006~2010年の衛星観測データから干渉画像を作成しているが、積雪による影響を避けるため融雪期のデータのみを用いている。そこで本研究ではLiu et al., (2014)で使われていない冬季のデータ、さらには現在運用中の衛星による2020年までのデータを用いての干渉画像作成を動機として、先行研究と同様のプルドー湾周辺地域の凍土変動に伴う地表変位の検出をこころみた。解析の結果、冬季のデータにおいても干渉画像は作成できた。さらに2016~2018年のデータから、プルドー湾周辺地域を流れる河川であるSagavanirktok川沿いに凍土変動のシグナルを検出した。気温が上がるペア、気温が下がるペアでそれぞれ沈降と凍上のシグナルが見られその変動量も10 cmに満たない数㎝であることから、凍土の季節的融解/凍上との関連性が示唆される。しかし多くの画像において電離層ノイズが除去しきれない問題がある。