日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW18] 流域圏生態系における物質輸送と循環:源流から沿岸海域まで

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (5) (オンラインポスター)

コンビーナ:細野 高啓(熊本大学大学院先端科学研究部)、伴 修平(公立大学法人 滋賀県立大学)、齋藤 光代(広島大学 大学院先進理工系科学研究科 )、Adina Paytan(University of California Santa Cruz)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/26 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[AHW18-P14] 小川原湖における自由生活性線虫類の分布に関する研究

*有原 昂1眞家 永光1、嶋田 大輔2、山崎 博史3、静 一徳4、樽屋 啓之1 (1.北里大学、2.国立科学博物館、3.九州大学、4.青森県産業技術センター内水面研究所)


キーワード:汽水湖、環境指標、メイオベントス、線虫、空間分布

水域に生息するベントスのうち,1mm-42µmのサイズに篩別される生物をメイオベントスいう.メイオベントスは,バクテリアやデトリタスの消費者として,さらにマクロベントスや魚類の食糧源として,底生生態系内で重要な役割を担っている.つまり,デトリタス,バクテリア,メイオベントス間の一連の流れが底生生態系におけるエネルギー移動の主要な経路となっている.一般的にメイオベントスの中で自由生活性線虫は,量的・バイオマス的に最も多く存在し,サンプル内のメイオベントス分類群の60%-95%,バイオマスの50%-90%が線虫で構成される(Giere 2009).自由生活性線虫は海洋から陸水まで幅広く分布している.しかし,汽水湖における自由生活性線虫の研究は世界的に少なく,種構成や分布についてはよく分かっていない.自由生活性線虫の分布は環境によって変わり ,環境要因と複雑に絡み合っている.その為,自由生活性線虫は環境指標や環境変化のモニタリングとして有効な動物群とされている.線虫の種類と環境条件の関係についての研究は少ないが,線虫の摂食型指標(FT-index)や線虫群集指数(MI)は人為的な影響を評価する上で有用と考えられている(Ridall and Ingels 2021),この指標は,その簡便さから現在でも利用されており,線虫の生態に関する情報が少ないため,FT-indexやMI以外の汎用的な指標はほとんどないのが現状である.そこで本研究は,汽水湖における自由生活性線虫の分布に関する基礎データの取得を目的とした.
調査地は汽水湖である青森県上北郡東北町の小川原湖とした.小川原湖は富栄養化が進み水質の悪化やシジミなど水産物の漁獲量の低下が問題となっている.調査は,2022年9月に行い,小川原湖全域の36地点より,表層底泥(-3cm)を採取した.採取した土壌は大学に持ち帰り,-80度にて保存した.試料中に含まれる線虫を密度分離法,洗い出し法にて抽出し形態観察を行い科レベルまで同定した.
小川原湖における自由生活性線虫の個体数密度は1‐408 inds. /10cm2で推移した. 種構成は南部と北部では大きく異なっていた. これには塩分, 水深, 硫化物濃度, 底質組成が関係していると考えられた.また自由生活性線虫は水深12m以深で個体数密度が大きく減少した.本調査時において12m付近に塩分躍層が存在しており, それ以深では溶存酸素濃度がほぼ0mg/lであり, 硫化物濃度は1 mgS/gを超えていた.その為,自由生活性線虫の分布は塩分躍層の形成に影響されると考えられた.本研究の結果は低塩分汽水湖生態系における自由生活性線虫の湖沼内の水平分布に関する世界で初めての知見である.

謝辞:本研究はJSPS科研費 22H02479の助成を受けたものです.