日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 都市域の水環境と地質

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (8) (オンラインポスター)

コンビーナ:林 武司(秋田大学教育文化学部)、宮越 昭暢(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[AHW24-P03] 東京都大田区呑川の水流の形成に果たす浅層地下水の役割

*安原 正也1李 盛源1伊東 優希3、稲村 明彦2 (1.立正大学地球環境科学部、2.産業技術総合研究所、3.立正大学大学院)

キーワード:都市河川、三面張り、水流形成、浅層地下水、地下水流入

東京都大田区を流下する呑川は三面張のコンクリート護岸を有する典型的な都市河川である.呑川ではその水流維持のため,目黒区大岡山の工大橋の下において,落合水再生センターから導水した高度下水処理水が日量2〜3万m3程度放流されている.一方,工大橋の約4 km下流の鶴林橋までの流路区間においては,高さ5 m程度の護岸側壁の途中に設置された多数の“湧水パイプ”を通じて地下水が排水されている.また,地下水の恒常的な浸出を示す黄褐色に染まった部分も河道のコンクリートの継ぎ目に散見される.さらに,鶴林橋に近い下流部には,部分的にコンクリート打ちされていない河床部分(縦1 m×横2.5 m程度;いわゆる“湧水孔”)が約1 kmの区間にわたって相当数存在することから,呑川にはこれらの経路を通じて周辺の浅層地下水が流入し,その水流(流量)の形成に一定の寄与をしているものと考えられる.
そこで,2015年〜2019年の無降雨日を対象に,放流される下水処理水と流域の浅層地下水の酸素同位体比(δ18O)と電気伝導度(EC)に基づく混合解析を行い,工大橋から鶴林橋の約 4 km区間での呑川の水流形成に果たす浅層地下水の役割の評価を試みた.δ18Oに基づく浅層地下水の寄与率Xgは,たとえば入梅前の2018年5月12日には約12%,夏季豊水期に相当する2019年9月20日には約20%と季節による差が認められたものの,年間を通じて呑川の流量の形成に浅層地下水が無視できない役割を果たしていることが示唆された.これは,両日のECに基づく混合解析結果とも整合的であった.
続いて,浅層地下水の流入量を直接把握するために,2022年11月4日に呑川の河床に降りて流量観測を実施した.その結果,約4 kmの流路区間において12000 m3/日の浅層地下水の流入が認められ,これは鶴林橋における流量35000 m3/日の約34%に相当する水量であった.このように,コンクリート三面張の河川であるにもかかわらず,呑川は依然として武蔵野台地の(地下)水循環の重要な一部として機能していることが流量観測の結果からも明らかとなった.都市域における地下水保全を将来にわたって考える上で重要な知見となろう.
最後に,上記の浅層地下水流入量12000 m3/日を約4 kmの流路区間に対応する流域面積で除すると,流出高は1.60 mm/日となる.これは約580 mm/年に相当するが,当該地域の年平均降水量1,500 mm,また同流域の市街地率が95%を超えている現状(東京都,2017)を考えると,この地下水の起源についての検討が今後必要となろう.