日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT03] バイオミネラリゼーションと古環境プロキシー

2023年5月26日(金) 15:30 〜 16:45 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:豊福 高志(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、北里 洋(国立大学法人東京海洋大学)、Bijma Jelle(アルフレッドウェゲナー極域海洋研究所)、廣瀬 孝太郎(兵庫県立大学 自然・環境科学研究所)、座長:豊福 高志(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、廣瀬 孝太郎(兵庫県立大学 自然・環境科学研究所)、Bijma Jelle(アルフレッドウェゲナー極域海洋研究所)、北里 洋(国立大学法人東京海洋大学)


15:30 〜 15:45

[BPT03-06] 堆積岩中における芳香族フランとその起源に関する考察

*池田 雅志1安藤 卓人2沢田 健1 (1.北海道大学理学研究院地球惑星科学部門、2.秋田大学国際資源学研究科)


キーワード:芳香族フラン、バイオマーカー、P/T境界

ジベンゾフランなどの芳香族フラン化合物は、幅広い時代の堆積岩から検出が報告されてきた。これらの化合物は陸源有機物であるとされる一方で、具体的な起源については未だ議論が続いている。特に芳香族フラン類の異常濃集が報告されているペルム紀末の大量絶滅層準 (P/T境界)では、これらを陸上高等植物起源として陸上生態系の大崩壊イベントと解釈する説(Sephton et al., 2005; Fenton et al., 2007; Wang & Visscher, 2007)と、地衣類や菌類起源として大量絶滅後の先駆種や分解者の被覆イベントと解釈する説(Watson et al., 2005; Sawada et al., 2012)がある。前者は高等植物のリグニンや陸上土壌の多糖類をその起源と推定し、触媒を用いた燃焼実験によるジベンゾフランの生成の結果や他の陸源有機物の挙動との比較から論じている。一方、後者は自然界において多様なジベンゾフランを生成することで知られている地衣類の二次代謝産物を起源と推定し、堆積岩から検出される多種多様なジベンゾフラン類はこれらの生物種に起因する可能性を論じている。最初にこの芳香族フランを地球生命史研究に応用したSephton et al. (2009)では、P/T境界で報告されている菌類遺骸が卓越する層準(Fungal spike)でみられるReduviasporonitesの熱分解産物からP/T境界で得られる組成と似た芳香族フラン類の検出を報告しており、これらの菌類種が関与した可能性を支持している。一方、熱熟成実験では堆積物中での熟成を模した加熱実験からセルロースやリグニン、糖類からジベンゾフランは生成されたものの、アルキル基を持つジベンゾフラン類は生成されなかったことを報告している(渡邊, 2000など)。これらのことからもP/T境界における芳香族フラン類の濃集はジベンゾフランを生成する特定の起源に起因する可能性が示唆されている。
 本講演では、自然界における生合成、熱熟成シミュレーション実験、演者らが行っているグリーンランド中原生界堆積岩における芳香族フラン化合物の検出例(池田ほか, 2022)などを概説し、堆積岩中における芳香族フラン化合物の生物指標としての可能性を議論する。