日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT04] 地球生命史

2023年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:本山 功(山形大学理学部)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)

15:30 〜 15:45

[BPT04-01] カナダ・アビティビ緑色岩帯での27億年前の海底熱水活動におけるリンの挙動

*高階 悠貴1石田 章純1掛川 武1 (1.東北大学大学院 理学研究科 地学専攻)


キーワード:太古代、リン酸塩、枕状溶岩

リンは生命にとって必要不可欠な元素とされる。リンは現代の地球では海水中にリン酸塩の状態で存在し、太古代の地球でも同様だったと推測されている。現代の水圏と生物圏では大陸の岩石の風化がリン酸塩の主な供給源となっている一方、太古代の地球では大陸の存在量が現代よりも極めて少なかったと考えられている。この事は、太古代の水圏・生物圏はリン酸塩に乏しい環境であったという仮説を導き出す。そこで、海底熱水変質による玄武岩からのリン酸塩の溶出が、水圏および生物圏へのリン酸塩供給の代替プロセスとして提案されている。この仮説は多くの利点を持つが、直接的な地質学的証拠はまだ得られていない。太古代における熱水活動によるリンの挙動を明らかにする事は,初期地球におけるリン循環の理解をより進める事に繋がると期待される。
そこで本研究では、太古代の枕状溶岩試料に含まれるリンの海底熱水変質時の挙動を明らかにする事を目的とした。対象試料として、カナダのアビティビ緑色岩帯から採取した27 億年前の枕状溶岩とハイアロクラスタイトを調査した。枕状溶岩は変質の度合いに応じてコア部分とリム部分とを定義して分離し、鉱物学的及び地球化学的研究を別々に行った。
その結果、燐灰石と楔石の脈が変質の進んだリム部分においてのみ発見された。これらの脈は、岩石中のリンやチタンの移動によって形成されたと考えられ、常に方解石の脈と関連していた。この事は、リンやチタンの溶出・移動が方解石を形成するような炭酸に富む熱水によって引き起こされた事を示唆している。
また、楔石の脈の中にはは火山性ガラスの端に形成され、方解石とは関連しないものも存在する事が分かった。これらの観察と鉱物組成から、(1)初期の水質変質、(2)埋没した後の炭酸塩岩化作用、(3)変成作用の上書き、というこの枕状溶岩が被った一連の過程を推定する事が出来た。
加えて、主要元素及び微量元素の分析では、リム部分は一般に Ti、Fe、Mg、Ca、V、Sr、Rb、Ba、P といった元素に富む事が分かった。これらの富化傾向は楔石や燐灰石、方解石、変質鉱物の増加という鉱物組成の変化と整合的だった。
方解石の炭素同位体組成は、方解石を形成する二酸化炭素の起源がマグマと海水である事を示唆していた。また、硫化鉱物の硫黄同位体組成は比較的均質な組成を示した。この事は、硫酸塩の還元が枕状溶岩の内部では起こらなかった事を示唆している。その代わりに、均質なδ34S値を持つ硫化水素が系外から枕状溶岩に導入されたと考えられる。
本研究により、マグマ付近の深部まで循環する炭酸塩に富む熱水がリンやチタンを移動・濃縮する事が明らかになった。熱水の流出により、リンとチタンの一部は海水中に放出された可能性が高い。太古代の海底熱水活動によるリンの挙動はまだ十分に解明されておらず、今回の研究成果は、太古代におけるリンの起源という問題に新たな知見を与えるものと期待される。