日本地球惑星科学連合2023年大会

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[EV-03] 三宅賞レクチャー

2023年5月24日(水) 13:00 〜 13:40 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)


13:00 〜 13:40

[E-11-17] 三宅賞レクチャー:地球内部における加水・脱水反応と地球の水素量:三宅泰雄先生の研究との接点

*大谷 栄治1 (1. 東北大学大学院理学研究科地学専攻)

三宅賞の名を冠する三宅泰雄先生は,日本の大気化学・海洋化学のパイオニアであり,大気と海洋の詳細な放射性元素の分析により,科学者の立場から放射能汚染に警鐘をならした偉大な地球化学者である.この講演では,日本の大気化学・海洋化学のパイオニアである三宅泰雄先生の研究との接点である地球の大気・海洋の起源,地球内部における水の移動・循環とその地球内部における存在量について述べる.
海洋はその水素同位体比D/Hの研究から炭素質隕石や彗星によってもたらされたものと考えられてきた.最近,変成度の低いエンスタタイトコンドライトが水を含むことが明らかになり,この水を含むエンスタタイトコンドライトのD/Hおよび窒素同位体から,これが主な地球の材料物質である可能性が指摘されている(1).地球の形成初期のマグマオーシャンに水素を主とする星雲ガスが溶け込み(Nebular ingassing),地球に水をもたらしたというモデルも提案されている.その始原大気は,その後,太陽風によって吹き飛ばされたと考えられている(2,3,4).これらの研究から地球の水の量はこれまでよりも多く見積もられている.
海洋の水は,スラブの沈み込みによって,マントル深部に運ばれる.この水は含水鉱物中のOH成分として,また無水鉱物(Nominally anhydrous minerals, NAM相)中の不純物としてマントル深部に運び込まれる.最近,沈み込むスラブの2重深発面の下面において,クラックを満たす流体の存在を強く示唆する非常に大きなVp/Vsとポアソン比が報告され,深発地震面における流体の様子が明らかになった(5).また,スラブの上部のマントルに,スラブの脱水による流体の移動を示す群発地震が観測されている(6).この観測によってスラブで脱水した流体がクラックを作りながらkm/h程度の速度で上部マントルを上昇することが明らかになった.このようにスラブの脱水による流体の振る舞いの詳細が明らかになっている.
最近の我々の研究によって,水に不飽和の条件で水は含水鉱物に分配され,NAM相にはほとんど分配されず,含水鉱物を含む湿ったスラブでも水を含まないNAM相の流動則が支配することが明らかになった(7).上部マントルにおいて,一部の水が脱水され,さらにマントル遷移層や下部マントルに運ばれる.マントル遷移層下部や下部マントル最上部におけるスラブの脱水作用は,マントル遷移層の含水量の増加(8),下部マントル最上部の地震波低速度の異常(9)に寄与する.さらに下部マントルにおける含水鉱物の脱水は,深さ690 kmに及ぶ超深発地震(10)や下部マントル上部の地震波反射域(11)の原因となっている可能性がある.
 最近,スラブの上面の玄武岩層に存在するシリカ鉱物の高圧相(ポストステイショバイト相)が,下部マントル条件で数%の水を含む可能性が指摘されている(12. 13).下部マントルでスラブのカンラン岩層から脱水した流体は上部の玄武岩層に捉えられて,さらに下部マントル深部に運ばれる可能性がある.今後,スラブからどの程度脱水するのか,さらに下部マントル深部にどの程度水が運ばれるのかを定量的に見積もることが重要になっている.
引用文献: (1) Piani et al., Science, 369, 1110-1112, 2020; (2) Olsen and Sharp, PEPI, 294, 106294, 2019; (3) Wu et al., JGR, Planet, 123, 2691-2671, 2018, (4) Young et al., Nature, 616, 306-311, 2023, (5) Bloch et al., Geochem,Geophys, Geosys, 19, 3189–3207 2018, (6) White et al., EPSL, 521, 25–36, 2019, (7) Ishii and Ohtani, Nat Geosci, 14, 526-530, 2021, (8) Karato, EPSL, 301, 413–23, 2011, (9) Schmandt et al. Science 344,1265–68, 2014, (10) Zhao et al., Sci. Rep., 7, 44487, 2017, (11) Niu et al., JGR, 108, 2419, 2003, (12) Liu et al., GRL, e2021GL097178, 2022, (13) Ishii et al., PNAS,119, e2211243119, 2022.