日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-02] 総合的防災教育

2023年5月21日(日) 10:45 〜 12:00 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:林 信太郎宇根 寛中井 仁(小淵沢総合研究施設)、小森 次郎(帝京平成大学)、座長:林 信太郎(秋田大学大学院教育学研究科)、久利 美和(気象庁)、宇根 寛

11:00 〜 11:15

[G02-02] 生徒の主体性を育む避難訓練の在り方
―東京都内中学校での実践から―

★招待講演

*上田 啓瑚1、伊藤 花菜1大木 聖子1 (1.慶應義塾大学)

キーワード:学校防災、防災教育、避難訓練

本研究は,東京都内の中学校で行った,生徒と教員が連携して実施する新たな避難訓練の成果と課題を検討するものである.本研究では,同訓練の学校への効果を明らかにすることで,従来行われてきた避難訓練の問題点を指摘し,防災と教育の双方の観点から実効的と言える訓練の在り方について提示することを目的とする.
1995年の阪神・淡路大震災を機に唱えられるようになった防災教育の必要性は,2011年の東日本大震災を経てようやく,日本全域の学校現場の関心事となった.東日本大震災の翌年2012年に出された「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」最終報告においては,「災害発生時に,自ら危険を予測し,回避するための『主体的に行動する態度』を育成し,支援者となる視点から安全で安心な社会づくりに貢献する『共助・公助』の精神を育成する防災教育」が謳われ,子供の主体的な態度の育成が求められた.また 2019年12月に「自然災害に対する学校防災体制の強化及び実践的な防災教育の推進について(依頼)」が文部科学省(以下,「文科省」)から全国教育委員会等に通知が出され,実践的および効果的な防災教育の実施が求められている.
学校現場においては,防災を含めた安全教育の時間数が限られているのが現状である(文科省,2012)一方で,避難訓練は消防法および学校保健安全法で実施が義務付けられ,必ず毎年全国の学校で実施されている.しかし,学校の避難訓練の内容は形骸化しており,実践的なものになっていないことがほとんどであるのが現状である.そこで,本研究では,「どのような避難訓練が生徒の能動的参加を可能にするか」というリサーチクエスチョンをたて,学校での実践的な避難訓練を検討する.
東京都および埼玉県の小中学校と共同研究を行い,発災時に起こり得る傷病者役を生徒が演じたり,教員と連携して対応したりする新たな避難訓練を開発した.同訓練は2022年に両校で導入され,継続的に実施された.同訓練は,まず緊急地震速報を流し,生徒らは一時避難行動をとる.その後,事前に役を与えられた生徒は,傷病者役として演技を開始し,教員や周辺の生徒が連携し対応していく.
本論文では,同訓練に参加した中学生511名に対して,事後質問紙調査およびヒアリング調査を実施し,教員に対してはヒアリング調査を実施した(総文字数117,945文字).その結果, 42のカテゴリーを抽出し,それらのオープン・コーディングの出現数について質的データ分析アプリMAXQDA(ver.2022を使用)を用い,全3回を分析した.さらにそれらのオープン・コーディングから「災害を想像」「訓練での学び」「実践」「意欲」「新たな立場」「新たな訓練」「訓練で生じた感情」の7つの概念的カテゴリーを設定した.これらを,もとの文脈に則っているかに注意しながら再文脈化(ストーリー化)すると,「生徒は本訓練を今までになかった『新たな訓練』と認識し,具体的に『災害を想像』し,『訓練での学び』を得た.そして,訓練の中での『実践』し,傷病者の立場などの「新たな立場」を経験することで,学習や改善の『意欲』や『緊張感や悔しさなどの感情』を抱いた」と表現できる.
つまり,参加した生徒においては,訓練のリアリティーから災害時を想像し,これまでの学習を活用しつつ,他者に対する共助を実践するに至ったことが明らかになった.また,生徒が新たな役割を認識したことで,学習意欲の向上や改善につながったことが明らかとなった.本訓練に参加した生徒は,これまでは教員の指示に従い,避難行動をとるだけであったが,本訓練を行う過程で,教員や大学生と連携協働し,自ら演技を行ったり,他者への対応を行ったりすることで,能動的学習者として,実践共同体への参画を行っていった.従来の避難訓練では,規律的行動と校庭への迅速な避難に重点が置かれていたが,本訓練では,指示されるだけではなく,自ら臨機応変にその場に対応していくことが共同的に目指される.その過程において,訓練への十全的な参加へと促されていくことが明らかになった.実際,同訓練を経験した生徒が進学先の中学校で形骸化した避難訓練の改善の提案を行うなど主体的な活動への展開もあった.
同訓練の結果から,従来の形骸化した訓練には「リアリティー」「コミュニケーション」「アクティブラーニング」「改善サイクル」の4つの重要要素が欠落していたことが示唆された.
その一方で,今後の課題として,生徒間や教員間での訓練への意欲の差異の検証や,他校種・他校での本訓練の実施可能性の検証がある.さらに長期的な実践と分析を通し,検証していきたい.

【参考文献】
・文部科学省( 2012 )「「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」最終報告」(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/c housa/sports/012/toushin/__icsFiles/afieldfile/2012/07/31/1324017_01.pdf)(2023年2月16 日最終閲覧)