日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG21] 原子力と地球惑星科学

2023年5月25日(木) 09:00 〜 10:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)、濱田 崇臣((一財)電力中央研究所)、笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、座長:竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)

10:00 〜 10:15

[HCG21-05] 高レベル放射性廃棄物等の処分地選定に係るボーリング調査技術の実証研究(1)研究計画策定とマネジメント

*後藤 淳一1松岡 稔幸1西尾 光1 (1.原子力発電環境整備機構)

キーワード:放射性廃棄物、地層処分、ボーリング調査、葉山層群、三浦層群

1. はじめに
原子力発電環境整備機構(以下,NUMO)は,国及び地層処分研究開発機関が整備してきた技術について,わが国の多様な地質環境に対する適用性や課題などを事前に確認し,必要に応じて高度化・最適化すること,調査の計画立案,工程・品質管理,結果の解析・評価における自らのマネジメント能力を高め,人材育成を図ることなどの実証的な取り組みの重要性を認識し,一般財団法人電力中央研究所(以下,電中研)とともに,2006年度より,電中研横須賀地区において「実証研究」を進めてきた。ここでは,地層処分研究開発において事例のない新第三紀付加コンプレックス中の堆積岩類(葉山層群など)を対象に,大深度ボーリング実証試験(YDP-1~3孔)などを通じて各種データを取得し,それらを統合した地質環境モデルを構築・更新できることを確認した1)。また,NUMO内の実施体制の整備,現場工程会議による工程管理,手引書に基づく調査・試験の品質管理,現場巡視による安全管理などを通じて,若手を含む職員のマネジメントの経験を蓄積した。また,適用した技術の信頼性をより高めるための課題として,脆弱な葉山層群における孔壁崩壊や孔径拡大,コアロス低減に向けた掘削技術の最適化,掘削泥水が地質環境データに及ぼす影響の確認,付加コンプレックスの層序区分方法の高度化,低透水性岩盤に対する水理試験装置や採水装置の改良,岩盤の物理・力学・熱特性及び物質移行特性に関する未検討の評価技術の適用性確認,微生物が地層処分システムに及ぼす影響の解明,コア室内試験の品質管理・保証技術の最適化などを見出した。また,NUMO職員のマネジメント能力の向上及び人材育成も継続が必要と認識した。このため,NUMOと電中研は,2016年度より,新規大深度ボーリング実証試験(YDP-4孔)を中心とする研究を実施した。本件では,研究計画策定とマネジメント,続く5件では,ボーリング孔掘削,孔内・室内試験,及びそれらの品質管理・保証に関する検討成果について報告する。

2. 研究計画策定
高レベル放射性廃棄物等の処分地選定における概要調査では,ボーリング調査などにより,文献調査の評価結果を確認するとともに,その結果を地質環境モデルに統合し,処分場の設計及び安全評価を行う2)。本研究の計画策定に際しては,概要調査における最初のボーリング調査を想定し,既存の地質環境モデル[SH1] [GJ2] の更新に必要な地質・地質構造,水理特性,地下水の地球化学特性など,処分場の設計に必要な岩盤の物理・力学・熱特性など,安全評価に必要な物質移行特性(地下深部の微生物群集を含む)に関するデータを網羅的に抽出した。これを基に,全分野の担当者で,ボーリング孔の掘削長・掘削方法・掘削泥水,データ取得の目的・方法・深度などについて,品質や費用への影響も含めて議論を重ねた。さらに,上述の技術的な課題への対応を考慮し,同一地点に2孔(YDP-4a孔,4b孔)を配置した研究計画を策定した。

3. マネジメント
以下に計画策定後のマネジメントに係る検討結果を示す。YDP-4a孔では,沖積層下位に葉山層群に類似する岩石が出現し,それ以深も三浦層群は確認できず,孔壁崩壊や試験装置の不具合・抑留などのトラブル,新型コロナウィルス感染症[SH3] [GJ4] 緊急事態宣言に伴う休工などが重なり,YDP-4a孔を深度420mから深度720mまで延伸し1孔のみ(YDP-4孔に改名)とするよう計画を変更した。このように計画とは異なる状況に遭遇するたびに,掘削泥水や孔内試験が地質環境に与える影響や,室内試験用のコア試料採取の優先度を検討し,適宜計画を修正した。その実績に基づき掘削から各孔内試験に至る手順を体系的に整理した。また,当初計画からの変更点やその経緯・理由が追えるよう記録を整理した。工程管理については,工程表や日々の作業日報などに基づき,工程に影響を与えた主な事象と休工・遅延期間について整理した。以上を通じて,脆弱かつ膨潤性を有する地層に対するボーリング調査の流れや試験実施の優先度を把握し,今後の概要調査に反映可能な知見を蓄積することができた。

4. おわりに
本研究を通じて,概要調査に向けた計画立案及びマネジメントに関する経験・知見を蓄積することができた。今後は,孔内試験手法の適用性確認を継続し,その結果を踏まえて試験手法の合理化及び最適化、調査・試験の品質・安全等に関するマネジメント能力のさらなる向上を図る。

文献
1)近藤ほか(2014):地層処分地選定のための地質環境調査技術の実証研究:調査段階に応じた地質環境モデルの構築と調査手法の適用性検討,地質学雑誌.
2)NUMO(2021):包括的技術報告:わが国における安全な地層処分の実現-適切なサイトの選定に向けたセーフティケースの構築-,NUMO-TR-20-03.