日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG21] 原子力と地球惑星科学

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)、濱田 崇臣((一財)電力中央研究所)、笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、座長:濱田 崇臣((一財)電力中央研究所)

11:30 〜 11:45

[HCG21-09] ベントナイト原鉱石に見られる多様なセメンテーション組織

*石渡 翔丸1菊池 亮佑2大竹 翼2佐藤 努2 (1.北海道大学大学院工学院、2.北海道大学大学院工学研究院)


高レベル放射性廃棄物の地層処分では、緩衝材として膨潤性、低透水性などに優れたベントナイトを用いることが考えられているが、長期的には変質して本来求められるバリア機能が低下する可能性が指摘されている。ベントナイトの変質の一つに、間隙に二次鉱物が析出して鉱物どうしが固着するセメンテーションがある。セメンテーションは、緩衝材の膨潤圧の低下などの悪影響を引き起こすことが考えられているが、その地球化学的なプロセスや岩石組織の変化に対する理解は十分ではない。こうした長期にわたる変質を実験室のみで再現・評価することは困難であることから、天然環境で類似する変質を経験した試料を見つけ出し、その変質のメカニズムを評価するナチュラルアナログ研究の視点が必要になる。
 本研究では、緩衝材の候補となっているクニゲルV1の原鉱石である山形県大江町の月布鉱山で産出されるベントナイトを採取し、微細な組織の観察と地球化学的な分析を行った。月布鉱床は、約1500万年前に堆積した火山灰が埋没して続成作用によってベントナイト化したもので、地層処分で想定されるような比較的低い温度域におけるセメンテーションのアナログ試料として期待されている。
 乾式研磨法によりベントナイトの薄片試料を作製し、セメンテーションされたベントナイト原鉱石の微細な組織の観察を行った。走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、火山灰に元から含まれる粗大な石英や斜長石のほか、モンモリロナイトのマトリクス上に自生と思われる数μmほどの微細なシリカ鉱物が普遍的に分布している様子が確認された。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてさらに詳細に観察したところ、微細なシリカ鉱物は石英やアモルファスシリカなどで、モンモリロナイト端面と密に固着している様子が確認された。こうした組織は、複数のベントナイト層から採取した試料すべてで確認された一方で、モンモリロナイトと微細なシリカ鉱物の量比は試料によって大きく異なった。これらの量比は、層序や微量元素組成(Nb/Y vs Zr/TiO2)から推測される出発物質の火山灰の化学組成と相関を示さなかった。
 また、同時期に堆積したと思われる火山灰でも、地層の上下方向でセメンテーションの状態が全く異なることもわかった。例えば層厚が6、7mほどある一連のベントナイト層では、上部で微細なシリカによるセメンテーションが普遍的に見られた一方、下部ではカルサイトによるセメンテーションが卓越している様子が確認された。
 こうしたセメント物質の種類、量、配置といったセメンテーション状態の違いは、モンモリロナイト生成に必要な海水からのマグネシウムの供給やカルサイト生成に必要な炭素源の存在など、続成作用の過程における間隙水を通した物質収支の影響を強く受けることが考えられる。実際の処分環境におけるセメンテーションを予測するには、こうした環境の違いに応じたセメンテーション状態を理解することが重要だと考えられる。