日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG22] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2023年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、池田 昌之(東京大学)、菊地 一輝(京都大学大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、座長:池田 昌之(東京大学)、菊地 一輝(京都大学大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻)、清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)

16:15 〜 16:30

[HCG22-09] 地球の球状炭酸塩コンクリーションの成因毎の分類: 火星の球状コンクリーションの成因究明に向けて

*渡辺 隼生1長谷川 精1 (1.高知大学 理工学部)

キーワード:球状コンクリーション、形成メカニズム、地球、火星、生物起源

世界各地の堆積岩の地層中には、様々なサイズや組成からなる球状コンクリーションが見られる。その形成メカニズムは、堆積直後に生物遺骸の腐食起源で形成されるもの(Yoshida et al., 2015)、初期続成作用のマンガン還元(Liu et al., 2019)や硫酸還元(Loyd et al., 2014)で形成されるもの、メタン生成菌の影響(Loyd et al., 2012)や埋没続成に伴う熱分解起源(Dale et al., 2014)などバライエティに富んでいる。また、NASAの着陸探査ローバー(オポテュニティとキュリオシティ)により,火星のメリディアニ平原(Chan et al., 2004; Yoshida et al., 2018)やゲールクレーター(Stack et al., 2014; Wiens et al., 2017; Sun et al., 2019)の地層からも球状コンクリーションが発見されている(長谷川ほか, 2023)。地球の球状コンクリーションの多くは生物が関与して形成されるため、仮に火星の球状物体が生物起源のものを含んでいれば、太古火星の生命痕跡を保存している可能性があり、地球外生命のハビタリティを探る上で極めて重要な探査対象となる。そこで本研究では、火星の地層中に含まれる球状コンクリーションの成因究明に向けて,地球の様々な地層から採取した球状コンクリーションに対して,元素マッピングや同位体比分析による検討を行った。
 本研究では、北海道羽幌町、富山県八尾町、高知県竜串海岸で採取されたコンクリーションを使用した。試料は体化石入りや、化石無しに注目し、XGT-7200及びEPMAによるコンクリーション内部の元素分布の観察と、安定炭素・酸素同位体比分析を行った。元素分布や同位体比分析の結果から、成因や続成過程の違いに応じて3つのタイプに分類した。タイプⅠはPが内部に濃集し,極めて軽い炭素同位体比(-20‰ ~ -17‰)を持つ。富山県八尾層群のツノガイコンクリーションがこれに当たり,堆積直後の生物遺骸腐食に伴って形成されたと考えられる(Hall & Savrda, 2008; Yoshida et al., 2015)。タイプⅡは中心部にPが濃集し、外側にMnやFe、Sの濃集が見られ、中心部に向かって炭素同位体比が軽くなる(-15‰ ~ -8‰)傾向を持つ。北海道蝦夷層群のアンモナイトコンクリーションがこれに当たり、堆積直後の生物遺骸腐食に伴って内側が形成された後に、外側が初期続成過程のマンガン還元や硫酸還元の影響で形成されたと考えられる(Loyd et al., 2014; Liu et al., 2019)。タイプⅢはMnやFe, Sの濃集が見られ,炭素同位体比は比較的軽い(-10‰ ~ -5‰)が,中心と縁辺部で顕著な違いが見られない。竜串層の生痕入りコンクリーションがこれに当たり,初期続成過程のマンガン還元や硫酸還元の影響で形成されたと考えられる。
火星のコンクリーションの成因を検討した研究は少ないが,ゲールクレーターのものは球状、平板状、不規則型、樹状突起型など様々な形状を持ち,埋没過程での圧密を受けている証拠が示されている(Sun et al., 2019)。またゲールクレーターの地層の一部の層準は軽い硫黄同位体(-10‰ ~ -20‰)、軽い炭素同位体値(-30‰ ~ -40‰)を持ち,太古火星に硫酸還元菌やメタン生成菌が存在し、その影響を受けた可能性が示唆されている(Franz et al., 2017; House et al., 2022)。同層準にも球状コンクリーションが存在しており,硫酸還元やメタン生成菌がその形成に関与した可能性もあるが、コンクリーション部を対象とした同位体比測定がまだ行われておらず、現時点では検証が困難である。一方で幾つかのコンクリーション発達部に対して元素組成は測定されており、1試料のみPの濃集が高い球状コンクリーションが見つかっている(Sun et al., 2019)。Sun et al. (2019)はP濃度の高い球状コンクリーションに対しての検討を行っていないが、同試料が存在する層準は炭素同位体値が低い層準に対応しており、形状の類似性などから地球のタイプⅠと同様に生物起源である可能性がある。