10:45 〜 12:15
[HCG22-P01] ROV潜航により判明した富士川沖の海底堆積環境
キーワード:駿河湾、混濁流、TCD、遠隔操作無人探査機(ROV)、堆積環境
駿河湾はプレート収束域に位置し,急峻な地形的特徴を持ち,最大水深が湾口部で約2500mになる.湾奥部からは一級河川の富士川(全長約128 km)が流入し,台風や梅雨の時期の大雨により水位・流量が増加し洪水や浸水被害が発生している.このような氾濫時には砕屑物を多く含む濁度の高い河川水が海域に流入し,砕屑物が海域へ供給されていることが推察される.馬塲ほか(2021)は, 2018年9月の台風24号通過時に,海底に設置された海底地震計が移動・急浮上した事実から,台風を起源とする混濁流が発生した可能性を示唆した.よって,駿河湾では大雨による河川の流量増加に伴う堆積物重力流が発生すると考えられる.
これまで東海大学では駿河湾における気象イベントによる堆積物の移動を把握することを目的に,調査船望星丸(約2000㌧),北斗・南十字(19㌧)を用いて,詳細な海底地形および後方散乱強度データの取得,および表層堆積物試料採取を行っている. 混濁流の直接観測を目指し,2022年8月に駿河湾奥部の海底(水深1312 m)に自己浮上式海底設置型混濁流観測装置(TCD:Turbidity Current Detector)を設置した.しかし,9月23日に発生した台風15号通過後に,設置地点から約2.8 km南(水深1421 m)に移動したことが確認され,台風による影響が推察された.その後TCDが自己浮上せず回収に至らなかったため,遠隔操作無人探査機ROV(海洋エンジニアリング所有)にて,捜索と同時に海底映像を取得した.本発表ではROVで取得した海底映像からTCD移動地点周辺(水深約1400 m付近)の海底観察状況について報告する.
ROVによる潜航調査は2022年12月25日に実施した.ROVによる捜索範囲はTCD移動地点を中心に南北方向に約130 m,東西方向に約50 m,水深差4 m,傾斜約2度であり,探査範囲の地形はほぼ平坦である.探査ルートは,10:00JSTに水深1403 m(TCD発見地点から南方向に約28 m離れた地点)に着底し,トラフ軸に沿って約100 m南進し,10:51JSTに折り返し (捜索範囲南端の水深1406 m),北進し11:56JSTにTCD(水深1401 m)の発見となった.
底質の特徴として,海底面は泥質堆積物に覆われ,その下位に砂質堆積物が堆積している.水深1404 m付近(10:46JST,TCD発見地点から南方向に約39mの地点)では堆積物に覆われた円礫が観察された.西側に約2 m移動すると,高さ数cmのクレスト (南方向に発達する斜面を伴う)が確認された.水深1402 m地点(10:11JST)には半分埋もれた状態のタイヤが確認され,更に南下(約30 m)した水深1404 m地点には密集した植物片とロープが見られた(10:21JST).この地点から南西方向に約23 m移動した水深1403 m地点では周囲に北方向に凸部を持つ浸食地形(current mark)を伴う別の密集した植物片が確認された.さらに南下する中で南北方向(距離約34 m)に渡って凹凸地形が観察された.10:46JST(水深1404 m,TCD発見地点から南方向に約120 m)では,堆積物に覆われていない円礫が密集している様子が観察された.その後,水深1404 m地点(10:51JST)でROVは折り返し,北上開始した.再び南北方向(約34 m)に渡って発達する凹凸地形が表れた.さらに約47 m北上すると舌状地形(11:13JST)が表れ,その地点から約9 m北側に,他の地点の凹凸地形と比べて緩い凹凸地形が確認(11:14JST)された.ここから約9 m北上しTCDの発見(11:56JST)に至った.TCDは,堆積物と多数の植物片が絡むような形で発見された.植物片の密集物やTCDの周辺に見られたcurrent mark(北側に凸部を持つ)が確認され,その形状から北から南への流れにより浸食されたと考えられる.
以上から,駿河湾奥部富士川沖の海底には,陸から運搬された人工物や植物片などが多く発見された.また,海底面に南方向への流れによる浸食地形が確認され,湾奥部の海底面を覆う堆積物は南側へ向かう強い流れにより運搬されたと考えられる.加えてTCDの移動結果も併せると,台風により洪水起源重力流が発生したと推測される.駿河湾では,通年を通して様々な規模・要因の洪水起源重力流が発生していると推定され,今後継続して調査を行うことで,気象イベントに伴う堆積物移動メカニズムが明らかになると考える.
参考文献
馬塲久紀ほか(2021)海底地震計記録に捉えられた台風24号の通過に伴う駿河湾北部の混濁流,地震, 73, 197-207.
これまで東海大学では駿河湾における気象イベントによる堆積物の移動を把握することを目的に,調査船望星丸(約2000㌧),北斗・南十字(19㌧)を用いて,詳細な海底地形および後方散乱強度データの取得,および表層堆積物試料採取を行っている. 混濁流の直接観測を目指し,2022年8月に駿河湾奥部の海底(水深1312 m)に自己浮上式海底設置型混濁流観測装置(TCD:Turbidity Current Detector)を設置した.しかし,9月23日に発生した台風15号通過後に,設置地点から約2.8 km南(水深1421 m)に移動したことが確認され,台風による影響が推察された.その後TCDが自己浮上せず回収に至らなかったため,遠隔操作無人探査機ROV(海洋エンジニアリング所有)にて,捜索と同時に海底映像を取得した.本発表ではROVで取得した海底映像からTCD移動地点周辺(水深約1400 m付近)の海底観察状況について報告する.
ROVによる潜航調査は2022年12月25日に実施した.ROVによる捜索範囲はTCD移動地点を中心に南北方向に約130 m,東西方向に約50 m,水深差4 m,傾斜約2度であり,探査範囲の地形はほぼ平坦である.探査ルートは,10:00JSTに水深1403 m(TCD発見地点から南方向に約28 m離れた地点)に着底し,トラフ軸に沿って約100 m南進し,10:51JSTに折り返し (捜索範囲南端の水深1406 m),北進し11:56JSTにTCD(水深1401 m)の発見となった.
底質の特徴として,海底面は泥質堆積物に覆われ,その下位に砂質堆積物が堆積している.水深1404 m付近(10:46JST,TCD発見地点から南方向に約39mの地点)では堆積物に覆われた円礫が観察された.西側に約2 m移動すると,高さ数cmのクレスト (南方向に発達する斜面を伴う)が確認された.水深1402 m地点(10:11JST)には半分埋もれた状態のタイヤが確認され,更に南下(約30 m)した水深1404 m地点には密集した植物片とロープが見られた(10:21JST).この地点から南西方向に約23 m移動した水深1403 m地点では周囲に北方向に凸部を持つ浸食地形(current mark)を伴う別の密集した植物片が確認された.さらに南下する中で南北方向(距離約34 m)に渡って凹凸地形が観察された.10:46JST(水深1404 m,TCD発見地点から南方向に約120 m)では,堆積物に覆われていない円礫が密集している様子が観察された.その後,水深1404 m地点(10:51JST)でROVは折り返し,北上開始した.再び南北方向(約34 m)に渡って発達する凹凸地形が表れた.さらに約47 m北上すると舌状地形(11:13JST)が表れ,その地点から約9 m北側に,他の地点の凹凸地形と比べて緩い凹凸地形が確認(11:14JST)された.ここから約9 m北上しTCDの発見(11:56JST)に至った.TCDは,堆積物と多数の植物片が絡むような形で発見された.植物片の密集物やTCDの周辺に見られたcurrent mark(北側に凸部を持つ)が確認され,その形状から北から南への流れにより浸食されたと考えられる.
以上から,駿河湾奥部富士川沖の海底には,陸から運搬された人工物や植物片などが多く発見された.また,海底面に南方向への流れによる浸食地形が確認され,湾奥部の海底面を覆う堆積物は南側へ向かう強い流れにより運搬されたと考えられる.加えてTCDの移動結果も併せると,台風により洪水起源重力流が発生したと推測される.駿河湾では,通年を通して様々な規模・要因の洪水起源重力流が発生していると推定され,今後継続して調査を行うことで,気象イベントに伴う堆積物移動メカニズムが明らかになると考える.
参考文献
馬塲久紀ほか(2021)海底地震計記録に捉えられた台風24号の通過に伴う駿河湾北部の混濁流,地震, 73, 197-207.