日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS06] 津波とその予測

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (9) (オンラインポスター)

コンビーナ:室谷 智子(国立科学博物館)、馬場 俊孝(徳島大学大学院産業理工学研究部)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[HDS06-P11] 非線形長波式とレーベンバーグ・マーカート法による非線形インバージョン手法の開発

*上谷 政人1馬場 俊孝2 (1.徳島大学大学院創成科学研究科、2.徳島大学大学院産業理工学研究部)


キーワード:津波、非線形インバージョン、レーベンバーグ・マーカート法

南海トラフでは大地震が繰り返し発生しており,7世紀頃から最近では昭和まで記録されている.将来発生すると想定される南海トラフ巨大地震を予測するためには過去の地震に基づいて研究を行うことも重要である.これまでに線形インバージョンを用いた波源断層モデルの検討が行われている一方で,非線形インバージョンを用いて津波痕跡高を説明する波源断層モデルを検討する例は少ない.本研究では大型計算機とレーベンバーグ・マーカート法により,陰的に非線形長波式を直接解くことで,津波痕跡高データに対して非線形インバージョンを行う手法を提案する.これまでの非線形インバージョンでは津波の非線形性の補正と線形インバージョンを繰り返すことで断層のすべりを求めていた.これに対して,本研究では大型計算機で非線形長波式による津波の伝番・遡上を含めた数値計算を繰り返し行い,イタレーションごとに任意の断層パラメータのすべり量を初期値として計算した理論値と観測値の残差をレーベンバーグ・マーカート法による最小二乗法ですべり量の修正量を求めることで,断層パラメータのすべり量を逐次修正する.
安中ほか(2003)で提案された1946年昭和南海地震の断層モデル(N3セグメントとN4セグメント)を元に小断層に分割したものを含めた4種類の断層を作成した.津波は非線形長波式に基づき18秒,6秒,2秒の格子間隔を持つ地形データで3層ネスティングを組み,計算時間を3時間,時間幅を0.1秒,海底斜面の水平変位による津波励起とKajiuraフィルターを考慮して計算した.津波痕跡高は痕跡高が50cm以上,汀線からの遡上距離100mが以内の条件を満たすデータを用いた.本研究では津波計算結果と直接比較できるように,海面基準の痕跡高のみを用いており,痕跡信頼度Aのデータを選別した.その結果,使用する津波痕跡高のデータ数は122となった.計算津波高と津波痕跡高を比較するために相田(1978)による幾何平均Kと幾何標準偏差κを用いて評価した.また,津波痕跡高の再現性の評価のために津波痕跡高と計算津波高の残差二乗和も算出した.また,3480ケースの特性化波源断層モデルの津波計算を実施し,122点の津波痕跡高を説明する断層モデルを検討し,新しく求めた断層モデルと比較した. 
安中ほか(2003)モデルの計算値と痕跡高に対するK-κ,残差二乗和は1.08(1.37),82.6m^2であったことに対して,最も津波痕跡高の再現性が良かった8枚の断層モデル(N3: 長さ×幅=77.5km×50km×4枚,N4: 長さ×幅 =62.5km×60km×4枚)のK-κ,残差二乗和は0.99(1.26),43.8m^2であり,残差二乗和が47%向上した.新たな断層モデルでは既存のモデルと比べて四国沖から紀伊水道沖にかけて大きなすべりが見られており,最大で7.16mのすべりが見られた.新しい断層モデルの地震モーメントは6×10^21 (N·m)であり,Baba et al. (2005)のモデルの3.5×10^21 (N·m)を上回り,安中ほか(2003)のモデルの7×10^21 (N·m)に匹敵する値となった.3480ケースの特性化波源断層モデルではNK_ABm_TYPE2Eh_30L1_d3_02が津波痕跡高の再現性が最もよく,K-κ,残差二乗和は1.02(1.39),88.7m^2であった.本研究で新しく検討した断層モデルの津波痕跡高の再現性は安中ほか(2003)のモデル及び特性化波源断層モデルを上回った.