日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS07] 災害リスク軽減のための防災リテラシー

2023年5月22日(月) 10:45 〜 12:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)、座長:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)、井ノ口 宗成(国立大学法人 富山大学)


11:15 〜 11:30

[HDS07-08] GISを活用した避難訓練可視化システムによる高校「地理総合」の教材開発

*橋本 雄一1 (1.北海道大学)

キーワード:GIS、GNSS、地理総合、津波避難、教材

1.研究の背景と目的
 2008年から続けられている日本の地理空間情報活用推進基本計画では,GIS,地理空間情報,衛星測位の中核的課題の1つに災害対策が位置づけられ,防災・減災への情報通信技術を利用が推奨されている。このような動きの中で,高校では2022年度から必履修科目となった「地理総合」の中で地図・GIS学習と防災学習が行われるようになったことから,これらを結び付け,地図・GISリテラシーと防災リテラシーを共に向上させることが望まれる。そのために,災害時に避難訓練時に自らの行動を振り返り,災害情報と合わせて検討するための教材が必要と思われる。
 そこで本研究は,避難訓練結果を短時間で情報共有するための避難訓練可視化システムを作成し,集団避難実験における運用を通して「地理総合」のための教材開発を行い,その効果及び課題を検証する。

2.研究方法
 本研究では,まず避難訓練可視化システムを開発した。次に,北海道釧路市と稚内市の津波浸水地域にて津波集団避難実験を行い,その中で避難訓練可視化システムを運用した。実験後にそれぞれ避難軌跡及び津波浸水データを可視化し,避難実験参加者に対して実験結果をフィードバックした。最後に参加者に対して,フィードバック前後にアンケート調査を行い,その調査結果からシステムの効果及び課題を検証した。
 開発した避難訓練可視化システムは,避難訓練参加者の位置情報収集を収集しWebサーバに送信するアプリと,訓練結果を津波浸水想定データ等の災害関連情報と合わせて表示するアプリから構成されている。重ね合わせる津波浸水想定データは,北海道危機対策局危機対策課が提供する最大想定シミュレーションデータである。
 本研究は,このシステムを用いて集団避難に関する移動軌跡データを収集した。まず,避難者全員のスマートフォンに移動軌跡データを収集するアプリケーション(以下,避難ログアプリ)をインストールした。その避難ログアプリを使用して集団疑似避難を行い,移動軌跡データを収集した。その後,本研究は,疑似避難後に避難者に対して避難行動に関する質問紙調査を実施し,GISを用いて収集した移動軌跡データと,質問紙調査の結果とを照合して,避難行動時における課題を抽出した。

3.釧路市における津波避難実験
 疑似避難者は,北海道大学文学部で2018年度前期の地域システム科学演習を受講している大学院生と学部生の全36名である。集団で,釧路市中心市街地西方の寿地区から最寄りの津波避難ビルまでの移動軌跡データを収集した。
 実験後に行った学習会において,避難移動ログと津波浸水想定の動画を見せる前には,避難が成功したと回答した参加者が50%であったが,見せた後には29%に低下した。避難における重要項目の選択では,動画閲覧の前後で「避難所位置の確認」と「避難経路の確認」の選択者が減り,「避難行動速度」の選択者が増えた。

4.稚内市における津波避難実験
 疑似避難者は,北海道大学文学部で2019年度前期の地域システム科学演習を受講している大学院生と学部生の全28名である。集団避難は,観光者等が多く集まると想定される「道の駅わっかない」を避難開始地点とし,(1)津波災害,(2)津波と土砂崩れによる複合災害の2ケースを想定し移動軌跡データを収集した。
 実験後に行った学習会において,避難移動ログと津波浸水想定の動画を見せる前には,避難が成功したと回答した参加者が68%であったが,見せた後には54%に低下した。避難における重要項目の選択では,動画閲覧の前後で「避難所位置の確認」と「避難経路の確認」の選択者が減り,「事前の防災学習」と「避難行動速度」の選択者が増えた。複合災害の疑似体験からの学習成果として「事前の防災学習」を重要視するようになったと思われる。

5.結論
 本研究で開発した避難訓練可視化システムの運用はおおむね良好に進められた。特に端末側アプリの機能簡略化によって,参加者もアプリを意識することなく,避難行動を行うことができた。実験後の学習では,訓練成否の自己評価に関して,主観的な評価から客観的評価に変化したことを確認できた。また,システムによる津波発生からの経過時間を意識した訓練結果の提示により,自身の避難速度や津波浸水の特徴といった点も参加者に意識させることができた。システムを利用した実験後の学習に関しては,動的な訓練結果と災害関連情報を可視化することによって,参加者の防災意識を変化させる効果があったことから,高校の「地理総合」の教材としても有効と考えられる。
 付記 本研究は,文部科学省「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2期)」における成果の一部である。