日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 人間環境と災害リスク

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、畑山 満則(京都大学防災研究所)、中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、佐藤 浩(日本大学文理学部)

14:30 〜 14:45

[HDS08-04] 活断層のリスクと恩恵を地域住民に伝えるには−阿寺断層地域での活動と課題−

★招待講演

*安江 健一1 (1.富山大学)

キーワード:地域づくり、活断層、社会教育、道の駅

活断層は,過去に大地震を引き起こした痕跡であるが,私たちの身近な存在でもあり恵みをもたらしている.この活断層について地域住民が興味を持つことは,防災意識や科学リテラシーの向上につながり,さらには活断層の存在や特徴を正しく理解することでより良い地域づくりにもつながると考えられる.本発表では,このような観点での取り組みとして,活断層である阿寺断層での約13年間の活動とそこから見えてきた課題を紹介する.
阿寺断層は,岐阜県東部に分布する左横ずれの活断層であり,木曽川の河成段丘での累積変位を示す地形などがよく知られている.地域住民の多くは阿寺断層の存在を知っているものの,位置や活動性などについて詳しくは知らない.
この阿寺断層について,中学生・高校生が学んで伝える活動を紹介する.岐阜県中津川市坂下地域において,中学1年生が学校近くの阿寺断層の位置や特徴を,現地を歩いたり,お菓子を使ったりして楽しく学ぶ企画を2010年に行なった.参加者の中から活断層に興味をもった5名が,翌年の夏休みの研究として阿寺断層を研究した.さらに,その中学生は,小学生の断層学習会の支援,断層の一般見学会の案内などを行なった.中学3年では,他地域の阿寺断層の見学,博物館の特別展での研究成果発表を行なった.高校は別々であったが,休日に地域と阿寺断層の関係などを調べたり,模型を作成したり,一般見学会の企画・運営などを行なったりした.以上のように生徒は,阿寺断層について学び,深め,伝えるようになり,さらに地域の活動の一翼を担うという成長がみられた.この取り組みは,地域の人たちが主体となって郷土の担い手育成をめざす社会教育の仕組みを確立しようと岐阜県博物館が実施した事業がきっかけで始まった.彼らは現在成人して,地元の高校生の阿寺断層を使った探究学習の支援,活断層学会が企画した活断層オンラインワークショップでの阿寺断層の説明など地域の担い手として活躍している.
次に小学生の取り組みを紹介する.岐阜県中津川市加子母地域では,小学校と中学校に通う子どもたちを学校・家庭・地域ぐるみで育てようと,2003年度から毎年11月最終日曜日に地域の方を先生として迎えて授業を行なっている.2017年度からは,小学6年生が阿寺断層を学んで伝える取り組みを継続している.活動は当日だけでなく,事前の学習や観察会,事後の資料作成や掲示なども行っている.この地域では,活断層を示す地形・地質を見ることができ,さらに活断層が関係した歴史・文化・自然などの恩恵も知ることができる.そのような内容を,小学生が学び,看板やパンフレットを作って掲示・配布している.最近では,児童一人ひとりがタブレットを使い,断層を説明する映像なども作成している.作成する際には,家族や地域の人にも協力いただいている.
最後に一般の方を対象とした取り組みを紹介する.阿寺断層の変位地形を見ることができる道の駅加子母では,2017年7月から2018年3月まで月に2回のペースでサイエンスカフェを開催し,地域の方々が活断層について気軽に語り合う場を設けた.さらに,道の駅から近くの活断層を見に行ったり,マウンテンバイクで活断層や歌舞伎小屋を巡ってそれらの関係を知ったり,実際に活断層を掘り出す体験型の観光をしたりと,地域内外の方が活断層に興味を持ち,詳しくなる機会となった.これらに参加した防災士の方は,阿寺断層がもたらす災いと恵みを学ぶ講座を企画したり,活断層学会の活断層オンラインワークショップに参加して阿寺断層の説明をしたりと活躍している.
以上のような活動を進め,地域にある活断層やそれにかかわる災害・文化・自然などを説明ができる人が多くなることは,よりよい地域づくりを無理なく持続していくために重要であると考える.今後は,地域と学校の連携の促進やまだ参加が少ない大学生などの若者の活動などにも期待したい.現在,阿寺断層を研究している大学生が,阿寺断層を事例に地形・地質の観点から活断層について学び,知識を深め,各自の研究に役立てるために「アテラボ」という勉強会を企画して,各地の大学生と勉強会を実施している.この取り組みを企画した学生が卒業しても継続していく仕組みをつくることも大切である.