日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR03] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2023年5月21日(日) 09:00 〜 10:30 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、堀 和明(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)、座長:山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、堀 和明(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)


10:15 〜 10:30

[HQR03-06] 1974年7月洪水(七夕豪雨)の浸水深データのデジタル化と2022年9月洪水との自然的条件・浸水深の相違について

*北村 晃寿1,2三井 雄太1,2 (1.静岡大学理学部地球科学教室、2.静岡大学防災総合センター)

キーワード:1974年7月洪水(七夕豪雨)、2022年9月洪水、浸水深、相対的海水準変動

静岡県の清水低地を流れる巴川は洪水被害を頻繁に起こし,1974年7月の七夕豪雨(総雨量508 mm)では,床上・床下浸水26,156棟,浸水面積2,584haの被害を出した.この被害の後,静岡県と静岡市が巴川の治水事業を進め,1998年に大谷川放水路が完成・供用された.だが,2022年9月の台風15号に伴う大雨(総雨量410 mm)で巴川とその支流の一部で越水が起き,床上・床下浸水が発生した.本研究では,今後の巴川の洪水被害の軽減の基礎資料として,1974年7月の洪水と2022年9月洪水との自然的条件―地盤変動と潮位―の相違を示す.
北村(2023, 静大地研報, 50, 7-37)は,2022年9月洪水の被災地の計86地点で,浸水深を測定し,報告した.この調査中に,1地点で電柱に取り付けられた1974年の洪水痕跡の表示板を見つけ,1974年7月洪水の浸水深は,2022年9月洪水のそれよりも0.7 m高かったことを明らかにした.調査後,1974年の洪水痕跡の表示板の位置と浸水深のデータが,紙媒体で,静岡県静岡土木事務所河川改良課に保管されていることを知った.事前に,このデータを得ていたならば,同地点で浸水深を比較できた.そこで,静岡県静岡土木事務所河川改良課に保管されている資料を複写し,位置と浸水深の電子化を行った.そして,そのデータと北村(2023)の測定地点と比較し,両洪水の浸水深の差に関する知見を得た.
折戸湾に流入する巴川の流下能力は,平均海面,河川勾配,潮位の影響を強く受ける.そこで,平均海面の変化として,気象庁の歴史的潮位資料+近年の潮位資料から1974―2021年の年平均潮位のデータを得た.また,地殻変動の上下動の変化のデータを地震予知連絡会(2022)の資料から得た.
河川勾配の相対的変化については,国土地理院の電子基準点の静岡3(静岡市城北公園)と清水2(東海大学海洋学部)の標高データを使った.1974年7月洪水と2022年9月洪水の時の潮位は,気象庁の潮位データから得た.なお,1974年7月洪水時の潮位は,後述する年平均潮位のデータで補正した.
静岡県の浸水深データと北村(2023)のデータについて,測定地点が30 m以内にある8地点で,浸水深の差を水準測量で測定した.
その結果,以下のことが判明した.
(1)1974年と2021年の年平均潮位は,152.2 cmと189.5 cmであるので,上昇量は37.3 cm となる.このうち,フィリピン海プレートの沈み込みによる沈降量が約27 cmで, 10.3 cmは温暖化に伴う海面上昇による.
(2)静岡3と清水2の標高データは,1996年3月22日から2022年8月20日までの間に静岡3のほうが清水2よりも3 cmほど沈降した.
(3)1974年7月洪水の時の潮位の補正に関しては,上記の1974年と2021年の年平均潮位の差の37.3 cmを加えた.1974年7月洪水時には,大雨時は引き潮時であり, 2022年9月洪水では満ち潮時であった.
(4)浸水深は多くの場所で,1974年7月洪水のほうが,2022年9月洪水よりも64-82 cm高いが,一部の地域では,その差は7-20 cmしかない.
以上のことから,巴川河口部では1974年7月洪水と2022年9月洪水までの50年間で,フィリピン海プレートの沈み込みに伴う地盤沈下と温暖化に伴う海面上昇との重複によって,地盤が約37 cm沈下していた.また,巴川の上流(静岡)と下流(清水)で,地形勾配の若干の低下が起きた(12.5 kmで5 cm).これらの現象は,今後も続くので,巴川流域の洪水の発生頻度は増加することになる.
 潮位に関しては,1974年7月洪水では,降雨時が干潮時であったのに対して,2022年9月洪水では降雨時と満潮が重なった.したがって,降雨に対する潮位のタイミングに関しては,1974年7月洪水は被害を抑制するほうに働き,2022年9月洪水では被害を拡大するように働いたことになる.
巴川は引き続き静岡市の治水事業の継続が必要である.