日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR03] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2023年5月21日(日) 15:30 〜 17:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、堀 和明(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)、座長:山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、堀 和明(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)


16:00 〜 16:15

[HQR03-13] 紀元前11世紀の寒冷気候が促す商人の誕生と前10世紀の弥生時代の開始

*川幡 穂高1 (1.早稲田大学 理工学術院 大学院創造理工学研究科)


キーワード:大寒冷化、弥生時代、商人

紀元前10世紀に始まる弥生時代:①一昔前の教科書や参考書には、弥生時代の開始年代は紀元前5世紀から4世紀頃と書かれていた.しかし、2003年に国立歴史民俗博物館の研究グループによる炭化米の放射性炭素年代などから日本の水稲栽培の開始は前10世紀前半となった.②弥生時代の開始の定義は,土器ではなく水稲栽培の開始である.③DNA解析より,日本の米は,現代米であっても古代米であっても,中国米との整合性が高い.そこで,日本米の起源は朝鮮半島でなく中国となる.④中国における水稲栽培は約7,000年前に長江下流域で始まり,約4,000年前までに山東半島まで北上していた.⑤この水稲栽培の人々の主要なY染色体DNAハプロタイプは長江下流域に起源をもつ,Y染色体ハプロタイプO1b2系統と想定される.
寒冷下が招く商人の誕生と弥生時代の開始:【1】黄海の堆積物中のアルケノン水温の結果によると,気候は前11世紀に1000年に1度の大寒冷化イベントを経験した.これは私たちの広島湾,博多湾,東京湾の結果と整合的である.【2】殷(商)王朝は前1046/前1027年(年代未確定)に滅び,周王朝に代わった.【3】亡国の民は各地に散り散りとなり,連絡と物資のやりとりを生業とした.ここに「商人」,「商業」が誕生した.【4】黄河文明の人々のY染色体ハプロタイプは「O2」と推定され,彼らは畑作を生業とするので,水稲栽培を専門とする弥生人にはなれない.【5】寒冷気候を遠因とする社会の混乱により,山東半島周辺の人々(O1b2)が流民となり,北九州にやってきて水稲栽培を伝え,弥生時代開始となった可能性が高い.

引用文献:『気候変動と日本人20万年史』川幡穂高 単著,岩波書店2022年4月,250ページ