10:45 〜 12:15
[HTT17-P04] 衛星画像を用いた湖沼の水草繁茂メカニズムの解明
キーワード:水草、湖沼、富栄養化、COD、有機物
1 はじめに
水草は炭素や栄養塩の循環に関連した役割を果たす、淡水生態系にとって重要な生物群のひとつである(Villa et al., 2015)。しかし、近年日本国内のいくつかの湖沼で水草の過剰繁茂が問題化している(山室,2014)。この問題と人間活動は関連しており、人間活動に伴う湖沼の富栄養化は水草の生育を加速させるとされている(Kiage and Walker, 2009)。以上のことから、湖沼の水草繫茂のメカニズムを解明する必要があると言える。先行研究では、MODISやLANDSATなどの空間分解能の低い衛星データを利用しており、研究の対象期間が短いことも多い。また、水草分布域のマッピングに主眼が置かれており、水草の生育に影響を与える気象指標や水質指標との関連性の検討がなされていない。このことから、複数の種類の衛星のデータを組み合わせ、より精度よく長い期間を対象として、気候、水質指標と水草繁茂との関係性を探る必要がある。そこで本研究では、日本で水草繁茂の特に問題化している諏訪湖、印旛沼、琵琶湖南湖を対象として、水草繁茂の具体的な指標(植生指数のタイムシリーズ、水草面積)を抽出し、気候、水質指標との関係性を明らかにすることを目的とする。
2 研究手法
Planet labs社衛星データ(2019-2022)を用いて対象地域のNDVI、NDAVI、WAVIを算出し、水深が3m以浅の範囲のNDAVIが0.2以上の領域を浮葉植物の繁茂範囲として面積を抽出した。同様の手法でSentinel2、LANDSAT8、7、5のデータでも浮葉植物繁茂面積を抽出した。衛星画像の浮葉植物範囲として抽出された部分以外の領域を、Random Forestを用いて水域と沈水植物繁茂領域に分類し面積を抽出した。これらにより得られた浮葉植物面積及び沈水植物面積の時系列データを作成した。また、衛星画像の解析より得られた植生指数(NDVI、NDAVI、WAVI)の時系列データを作成した。こうして得られた水草繁茂面積、植生指数の時系列データと、同時期の気象、水質データの時系列データを用いて、各指標同士の相関係数の算出と因果分析(グレンジャー因果性検定)を行い、水草繁茂に影響を与える変数の考察を行った。
3 結果及び考察
諏訪湖においては、1984~2020年の間に、浮葉植物面積は上昇傾向にあることが分かった。特に2000年以降にその傾向が強くなっている。これは水質の改善に伴い、アオコの減少と水草の繁茂しやすい水質が出現したことによると思われる。気象データのうち浮葉植物面積と相関が最もあったのは年平均風速であった。流出入河川の水質指標のうち最も浮葉植物面積との相関がみられたのは諏訪湖の北側から流入するR5地点(横河川)のCOD(化学的酸素要求量)であった。諏訪湖の水質のうち、透明度と大腸菌群数は浮葉植物面積との相関が高い傾向にあった。因果解析の結果では、諏訪湖の浮葉植物面積とグレンジャー因果をもつことが最も多い傾向にある水質指標はCOD(化学的酸素要求量)であることが分かった。CODは有機物に関する指標であり、有機物が多く存在すると、それが分解され硝酸イオンに変化し、これが湖沼の水草の生育に正の影響を与えていると考えられる。
4 おわりに
以上のことを総合して、諏訪湖においては風速と河川水、湖水中の有機物の挙動が水草の繁茂面積に影響を与えているとみられることが明らかとなった。今後はより定量的な気候因子、水質因子の影響評価や、水質に影響を与える流域の土地被覆の状況、人間活動の状況等を考慮に入れた総合的な解釈が求められる。
水草は炭素や栄養塩の循環に関連した役割を果たす、淡水生態系にとって重要な生物群のひとつである(Villa et al., 2015)。しかし、近年日本国内のいくつかの湖沼で水草の過剰繁茂が問題化している(山室,2014)。この問題と人間活動は関連しており、人間活動に伴う湖沼の富栄養化は水草の生育を加速させるとされている(Kiage and Walker, 2009)。以上のことから、湖沼の水草繫茂のメカニズムを解明する必要があると言える。先行研究では、MODISやLANDSATなどの空間分解能の低い衛星データを利用しており、研究の対象期間が短いことも多い。また、水草分布域のマッピングに主眼が置かれており、水草の生育に影響を与える気象指標や水質指標との関連性の検討がなされていない。このことから、複数の種類の衛星のデータを組み合わせ、より精度よく長い期間を対象として、気候、水質指標と水草繁茂との関係性を探る必要がある。そこで本研究では、日本で水草繁茂の特に問題化している諏訪湖、印旛沼、琵琶湖南湖を対象として、水草繁茂の具体的な指標(植生指数のタイムシリーズ、水草面積)を抽出し、気候、水質指標との関係性を明らかにすることを目的とする。
2 研究手法
Planet labs社衛星データ(2019-2022)を用いて対象地域のNDVI、NDAVI、WAVIを算出し、水深が3m以浅の範囲のNDAVIが0.2以上の領域を浮葉植物の繁茂範囲として面積を抽出した。同様の手法でSentinel2、LANDSAT8、7、5のデータでも浮葉植物繁茂面積を抽出した。衛星画像の浮葉植物範囲として抽出された部分以外の領域を、Random Forestを用いて水域と沈水植物繁茂領域に分類し面積を抽出した。これらにより得られた浮葉植物面積及び沈水植物面積の時系列データを作成した。また、衛星画像の解析より得られた植生指数(NDVI、NDAVI、WAVI)の時系列データを作成した。こうして得られた水草繁茂面積、植生指数の時系列データと、同時期の気象、水質データの時系列データを用いて、各指標同士の相関係数の算出と因果分析(グレンジャー因果性検定)を行い、水草繁茂に影響を与える変数の考察を行った。
3 結果及び考察
諏訪湖においては、1984~2020年の間に、浮葉植物面積は上昇傾向にあることが分かった。特に2000年以降にその傾向が強くなっている。これは水質の改善に伴い、アオコの減少と水草の繁茂しやすい水質が出現したことによると思われる。気象データのうち浮葉植物面積と相関が最もあったのは年平均風速であった。流出入河川の水質指標のうち最も浮葉植物面積との相関がみられたのは諏訪湖の北側から流入するR5地点(横河川)のCOD(化学的酸素要求量)であった。諏訪湖の水質のうち、透明度と大腸菌群数は浮葉植物面積との相関が高い傾向にあった。因果解析の結果では、諏訪湖の浮葉植物面積とグレンジャー因果をもつことが最も多い傾向にある水質指標はCOD(化学的酸素要求量)であることが分かった。CODは有機物に関する指標であり、有機物が多く存在すると、それが分解され硝酸イオンに変化し、これが湖沼の水草の生育に正の影響を与えていると考えられる。
4 おわりに
以上のことを総合して、諏訪湖においては風速と河川水、湖水中の有機物の挙動が水草の繁茂面積に影響を与えているとみられることが明らかとなった。今後はより定量的な気候因子、水質因子の影響評価や、水質に影響を与える流域の土地被覆の状況、人間活動の状況等を考慮に入れた総合的な解釈が求められる。