日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG34] ラジオアイソトープ移行:福島原発事故環境動態研究の新展開

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (15) (オンラインポスター)

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、桐島 陽(東北大学)、加藤 弘亮(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[MAG34-P01] 河川水中溶存態セシウム137濃度の温度依存性:森林河川・農業河川・ダム湖放流水の違い

*辻 英樹1、錦織 達啓2、伊藤 祥子1、尾崎 宏和1、林 誠二1 (1.国立環境研究所、2.東北農業研究センター)

キーワード:溶存態セシウム137、河川水、ダム放流水

多くの河川では、溶存態137Csの濃度は水温の関数として季節的に変化する。最近の研究では、この依存性は温度変化に応じた固相ー水相間における137Csの熱力学的平衡の変化が原因と考えられている。しかし、137Csの熱力学的挙動を分析した河川は限られており、温度による溶存態137Cs濃度形成の本質的なメカニズムはまだ解明されていない。本研究では、福島第一原子力発電所事故被災地における2014年から2019年の毎月の観測に基づき、農業河川(農地を流れる河川)、森林河川、ダム放流水について溶存態137Cs濃度と水温の関係を調査した。
137Csが固相ー水相間で平衡状態にあると仮定出来れば、137Csの分配係数と温度はvan't Hoffの式に従う。懸濁物質中の137Cs濃度と溶存態137Cs濃度の比が137Csの分配係数に相当するとした時、2つの農業用河川におけるvan't Hoffプロット(両軸に分配係数の対数と絶対温度の逆数を取った図)はvan't Hoff式の直線によってよく近似された。このとき、回帰式から求めた標準反応エンタルピーは既報の値(-19 kJ mol-1)に近いものであった。一方、2つの森林河川と2つのダム放流水のvan't Hoffプロットは、線形回帰式で良好に近似することができなかった。これらの水は懸濁物質に含まれる有機物の割合が高かったことから、森林河川やダム放流水の溶存態137Cs濃度は、懸濁物質と水相のイオン交換によって決まるのではなく、リターの微生物分解やダム湖内の微生物増殖など、他のメカニズムによって決まることが示唆された。