日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG34] ラジオアイソトープ移行:福島原発事故環境動態研究の新展開

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (15) (オンラインポスター)

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、桐島 陽(東北大学)、加藤 弘亮(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[MAG34-P08] 福島沿岸における福島第一原子力発電所由来の放射性セシウムの経年的流入量推定

*佐藤 俊1高田 兵衛1 (1.国立大学法人 福島大学)


キーワード:福島第一原子力発電所、放射性セシウム、ボックスモデル、直接放出

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震とそれにより発生した津波に伴う福島第一原子力発電所(1F)の一連の事故により、放射性物質が海洋環境中に放出された。それらの放出経路の一つとして汚染水が原子炉建屋内に大量に滞留したことに起因する海洋への直接放出がある。特に半減期が30年であり、長期にわたって環境に影響を及ぼすと考えられるCs-137の影響が懸念されているが、その直接放出は主に事故直後に行われた(3-6 PBq(Takata and Kumamoto、2021))。しかし、事故から10年以上経過した現在、1F港湾内や1F近辺海域のCs-137の濃度は事故前に比べても依然として高い。これは、この核種の海洋への放出が継続して行われていることを示している。また近年では、1F近辺海域におけるモニタリングの結果から、海水中のCs濃度の急激な減少や、数年にわたる緩やかな濃度の増減が見られた。
本研究では、東京電力ホールディングス(TEPCO)が公表している1F港湾内と近傍海域におけるCs-137濃度のモニタリング結果から、1FからのCs-137の事故後10年間の経年的な直接流入量についてボックスモデルを用いて推定した。さらに、TEPCOが公表している1Fにおける廃炉措置に関する施策などと照らし合わせながら、直接流入量推定に対するそれらの施策の影響についても考察した。
直接流入量の推定方法として、1F周辺について港湾内外を含むボックスモデルを設定した。第一に、直接流入が無いとした場合のボックス内のCs-137の存在量の経年変化を求めた(推定値)。第二に、モニタリング結果からボックスモデル内のCs-137の存在量を求めた(実測値)。その結果、実測値の方が推定値よりも大きいことから、1F近傍の海水には1FからのCs-137の近傍海域への直接流入があることが示された。
次に、TEPCOが公表している1Fにおける廃炉措置に関する施策などとの関連を調べるために、TEPCOのモニタリング結果について三か月移動平均を求めた。その結果、観測濃度が大きく減少する施策として、①海側遮水壁設置(2015/10/26)、②分析方法の変更時(観測点T1&T2:2012/10/8、観測点T0:2014/10/11)と一致した。また、2019年~2020年に観測濃度にみられた上昇傾向については、③2019年前後に5.6号機北口排水路で放出される排水路の集水域が変更されたことが要因と考えられるが、よくわかっていない。これらの3つの施策時で場合分けをして流入量を計算した結果、場合分けをしない推定値よりも少なかった。これらは、施策による流入量の低減効果によるものと考えられる。このことから流入量を求める際には、実際のモニタリング結果の変動について、廃炉措置に関する施策時などのタイミングを考慮して流入量を考慮して見積もる必要があろう。