日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI28] 地球掘削科学

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (24) (オンラインポスター)

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、濱田 洋平(独立行政法人海洋研究開発機構 高知コア研究所)、藤原 治(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MGI28-P05] 機械学習による掘削地層の岩質予測

*中川 友進1、井上 朝哉1、勝井 辰博2、和田 良太3、鈴木 博善4 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.神戸大学、3.東京大学大学院、4.大阪大学大学院)

キーワード:岩質予測、掘削、機械学習

掘削操業中に、掘削地層の情報を得ることは、安全性という観点で重要である。そのため、船上の計測データから掘削地層の情報を推定できれば、安全性の向上に繋がる。計測データは、掘削地層に直に接しているドリルビットの状態を内包していると考えられるため、計測データから掘削地層の情報を推定できると考えられる。そこで、我々はこれまでに船上の計測データを教師データとして、機械学習による掘削地層の岩質予測(Inoue et al. 2019, 井上ほか2021)、コア回収率予測(Inoue et al. 2021)、掘削状態の識別(井上ほか2017, Inoue et al. 2020)を試みた。掘削は連続的に行われるため、ドリルビットの状態は、一つ一つのデータ点に現れるだけでなく、連続した複数のデータ点の特徴量に現れる可能性がある。そのため、教師データに時系列区間特徴量を使用することで、掘削地層の岩質予測の性能の向上が期待できる。本講演では、船上の計測データ、その時系列区間特徴量を教師データとして、機械学習を用いた掘削地層の岩質予測について述べる。
東北地方太平洋沖調査掘削(https://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/exp343/)で得られた21本の地層サンプル(コア)の岩質分類、および船上掘削データを使用する。Visual Core Descriptionにて決定された岩質分類が航海レポートで報告されており(Chester et al. 2012)、コアの詳細分析も進められている(Kirkpatrick et al. 2015)。掘削地層の状態はトルクに現れると期待される。そこで、ドリルパイプに回転およびトルクを加える機器であるトップドライブの回転速度(V)とトルク(T)を使用する。また、時系列区間幅を60秒として計算した平均(Vm, Tm)・分散(σV, σT)を時系列区間特徴量として使用する。これらに対して、区間窓(window)を設けて、区間分割したデータを作成し、各々のデータに前述の航海レポート(Chester et al. 2012)で報告されている7つの岩質分類を正解ラベルとして付して教師データとする。21本のコアのうち、コア番号1は海底浅部でのテストコアリングであるため、今回の教師データから除外する。全体の60%を学習データに、20%を検証データに、20%をテストデータとして使用する。
機械学習モデルとして、畳み込みニューラルネットワークを用いた。より高度な機械学習モデルも考えられるが、掘削地層の岩質予測に有効なアーキテクチャが不明瞭になる可能性があるため、第一段階として単純な機械学習モデルを採用した。機械学習モデルの入力は前述した区間分割した時系列データであり、入力変数を「V, T」としたCase 1、「Vm, σV, Tm, σT」としたCase 2の2つのパターンを実施した。出力は岩質分類の予測結果である。機械学習モデルのパラメータは「stride=1, batch size=64, epochs=20, learning rate=1, gamma=0.7, kernel size=5, window size=48」とした。機械学習モデルは、3つの畳み込み層、2つの全結合層で構成される。各層のフィルタ数は、畳み込み層は16,32,64、全結合層は64,64とした。また、畳み込み層では、時系列方向にkernel sizeを5とした1次元の畳み込みを行う。最終層の値は、ソフトマックス関数を通して出力されるため、予測結果は7つの岩質分類ごとの確率である。
機械学習モデルの性能のばらつきを調べるため、乱数のSeedを0〜9と変えて、ランダムに教師データを抽出し、合計10ケースにて学習と予測を実施した。機械学習モデルの予測性能の指標として正解率を使用した。10ケースの正解率の平均値と標準偏差は、Case 1で66±8 [%]、Case 2で71±5 [%]となった。Case 1と比べて、Case 2は予測性能の向上が見られた。また、標準偏差が小さくなっており、Case 1よりCase 2の方が、表現力が向上していることを示唆する。
船上の計測データ、およびその時系列区間特徴量を教師データに用いた機械学習による掘削地層の岩質予測を試みた。トップドライブの回転速度とトルクで学習した場合(Case 1)と比べて、時系列区間特徴量を使用した方が(Case 2)、予測性能の向上が見られ、表現力の向上を示唆する結果が得られた。今後は、時系列区間特徴量を計算する時系列区間幅を変化させた場合の予測性能への影響を検証したい。また、掘削地層の岩質予測に加えて、科学掘削で重要となるコア回収率予測への展開を図りたい。