日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS03] アストロバイオロジー

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (20) (オンラインポスター)

コンビーナ:藤島 皓介(東京工業大学地球生命研究所)、杉田 精司(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、深川 美里(国立天文台)、鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MIS03-P02] 太陽系小天体内での核酸塩基類の安定性の評価

*菊地 智紀1小林 憲正1癸生川 陽子1、依田 功2、小栗 慶之2、福田 一志2 (1.横浜国立大学、2.東京工業大学)

キーワード:核酸塩基類、小天体、γ線

緒言
現在の研究では原始地球内部のみでの生体有機物の合成については不明であり、星間空間での有機物の存在などから、生命誕生につながる有機物の起源として分子雲中の星間塵が考えられている。星間塵はケイ酸塩を核とする塵の周りに水や一酸化炭素などの分子が凍りついたアイスマントルを形成していると考えられている[1]。また、星間塵を模擬した環境である一酸化炭素、メタノール、アンモニアなどの混合物への紫外線や粒子線の照射でアミノ酸前駆体や核酸塩基類が生成することが分かっている[2,3]。
隕石中の核酸塩基類の存在から[4]、星間で生成された有機物は一度小天体内部に取り込まれ、その後に隕石などにより地球に供給されたと考えられる。
小天体は分子雲が重力によって収縮し、原始惑星系円盤が形成され、塵が衝突し合体して成長することで形成された。このようにして形成された始原的小天体には氷・鉱物・分子雲由来の低分子有機化合物が含まれる。これらとともに小天体中に存在している26Alなどの放射性核種の崩壊熱や小天体同士の衝突によって氷が融けて液体の水になり、そこで有機物の反応が進んでいると考えられている。そこでのエネルギー源としてγ線が注目されている[5]。本研究では、小天体内部での核酸塩基類の安定性を調べるために,γ線照射実験を行った。

実験方法
小天体内部の模擬としてアンモニア:水=0.5:100の溶液にアデニン,チミン,グアニン,シトシン,ウラシルを入れ、γ線照射(60Co線源, 2.75 kGy/h, 48 h or 163 h)を行い、逆相クロマトグラフィーによって分析した。また、対照実験としてγ線照射を行わずに冷凍庫(-25℃)で放置した同様のサンプルも分析した。

結果と考察
48時間(132 kGy)照射の結果、アデニンは64%、グアニンは22%、シトシンとウラシルは5%が残存し、チミンは0.2%未満に減少した。163時間(448 kGy)照射後ではアデニンは10%、グアニンは5%、シトシンは1%が残り、ウラシルとチミンは0.2%未満に減少した。
これらのことからアンモニア水に溶かした核酸塩基類はγ線照射により徐々に分解すること、塩基の種類により安定性が異なることが示された。本研究では核酸塩基を溶媒に溶解したうえでγ線照射を行ったが、実際の小天体環境では短寿命の26Alの崩壊がほぼ終了する前には液体がほぼなくなっていたと考えられ、固体環境も調べる必要がある。
これらのことを踏まえ、今後は鉱物共存下の固体状態でのγ線照射による核酸塩基類の安定性も調べる予定である。また、今回の実験において他の核酸塩基類がどのような物質に変化したかを分析する予定である。また、より小天体環境を模擬したホルムアルデヒド、アンモニア、水の環境における核酸塩基類の安定性や新たな核酸塩基類の生成についても検討を行う予定である。

参考文献
[1] J. M. Greenberg et al., Adv. Space Res., 1997, 19, 981.
[2] T. Kasamatsu et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 1997, 70, 1021.
[3] Y. Oba. et al., Nat Commun, 2019, 10.
[4] Y. Oba. et al., Nat Commun, 2022, 13.
[5] Y. Kebukawa et al., ACS Cent. Sci. 2022, 8, 1864.