日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS07] 地球表層における粒子重力流のダイナミクス

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (17) (オンラインポスター)

コンビーナ:成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、酒井 佑一(宇都宮大学農学部)、志水 宏行(砂防・地すべり技術センター)、田邊 章洋(防災科学技術研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MIS07-P01] 泥流の堆積機構の実験的検討

*酒井 佑一1堀田 紀文2 (1.宇都宮大学農学部、2.東京大学大学院農学生命科学研究科)

キーワード:土石流、泥流、水路実験、堆積機構、二層モデル

土石流の堆積機構を明らかにすることは、土石流の到達範囲を推定する上で重要である。砂礫を主体とすると土石流(石礫型土石流)では、現在の土砂濃度に対応する平衡河床勾配が存在し、これに近づくように堆積が生じるとされる。一方、細粒砂を主体とする土石流(泥流)では、石礫型土石流で想定される勾配よりも緩勾配まで流れる傾向にあることが知られている。これは、泥流では粒子が乱流によって支持されるようになるためと考えられるが、低濃度乱流サスペンション流の理論を単純に適用しただけでは説明できないことが指摘されている。そこで本研究では、水路実験をもとに高濃度流としての泥流の堆積機構を検討した。

 水路実験では、長さ 8 m、幅 0.1 m の矩形直線水路を使用した。実験では、下流に設置したタンクにおいて水と土砂を攪拌しながら混合し、サンドポンプで吸い上げることで泥流を上流端から供給した。供給された泥流は水路を流下し、下流端からタンクに戻るような循環システムになっており、堆積が発生しない間は一定流量・土砂濃度の泥流を定常的に流すことができる。実験の各ケースでは、泥流の流量と土砂濃度を実験条件として設定し、土砂の堆積が生じる水路勾配と泥流の堆積過程を検討した。水路の初期勾配は、土砂の堆積が生じないような十分大きい勾配に設定し、土砂の堆積が生じるまで 0.1°刻みで勾配を下げていった。泥流の構成材料としては、東北珪砂 8 号(中央粒径は 0.11 mm)を用いた。

実験の各ケースで共通してみられた泥流の堆積過程は以下の通りである。初期勾配から堆積が生じる勾配までは、泥流が堆積層を形成することなく固定床上の流れを形成したが、ある勾配まで水路勾配を下げると水路下流付近で堆積層を形成し始めた。この時の水路勾配で固定しておくと、形成した堆積層は上流側に徐々に発達した。その後、堆積によって局所的に河床勾配が緩くなったところで跳水が発生すると、堆積層の上流側の常流部分で堆積が進み、下流側の射流部分で侵食が生じることで、堆積層全体としては上流進行した。この堆積層はやがて上流端まで到達し、また下流で発生して同様のことを繰り返した。そこで、この堆積層を河床波と考え、堆積が始まる時の水路勾配(堆積開始勾配と呼ぶ)を石礫型土石流の平衡河床勾配と同様に考えられるか解析を行った。

泥流の土砂濃度と堆積が始まる時の水路勾配の関係をみると、全体的には土砂濃度が大きくなるほど堆積開始勾配は大きくなる傾向があった。しかし、土砂濃度と平衡河床勾配が一対一対応する石礫型土石流とは異なり、同程度の土砂濃度に対しては流動深が大きいほど堆積開始勾配は低くなる傾向があった。この実験での測定値に対して泥流の平衡河床勾配の理論値を比較した。この際、石礫型土石流における平衡河床勾配の導出と同様に、河床での外力と底面剪断応力の釣り合いを考えることで、泥流の平衡河床勾配の理論値を算出した。この際、泥流の流動モデルとして二層モデルを採用した。これは、流れにおいて河床からのある高さを境界とし、それより上層では乱れによって土砂粒子が浮遊し、下層では粒子が層流状態で流れ、粒子間応力が卓越する層が形成されるとしている。堆積が始まるときの水路勾配と、泥流の平衡河床勾配の理論値を比較すると、両者は比較的よく対応した。以上のことから、二層モデルに基づく泥流の平衡河床勾配は、泥流の堆積が生じる勾配の推定に有効であるといえる。