日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS09] 生物地球化学

2023年5月23日(火) 15:30 〜 16:45 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:福島 慶太郎(福島大学農学群食農学類)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:福島 慶太郎(福島大学農学群食農学類)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

15:45 〜 16:00

[MIS09-07] 集水域からの窒素流出に与える土地利用と水文条件の影響の関連性

*尾坂 兼一1、田邊 晴人2、吉山 浩平1中村 高志3石橋 孝晃4、佐藤 祐一5 (1.滋賀県立大学 環境科学部、2.滋賀県立大学 環境科学研究科、3.山梨大学国際流域環境研究センター、4.京都大学情報学研究科、5.滋賀県琵琶湖環境研究センター)

キーワード:窒素化合物、集水域、同位体比

集水域からの窒素流出の空間的特徴を明らかにするために、同じ地域にある土地利用の異なる複数集水域から流出する窒素化合物濃度や窒素化合物の安定同位体比の測定が広く行われており、我々に多くの有用な知見をもたらしている。しかしこれらの研究は一度に複数の集水域を対象とし、空間的なバリエーションを多く取ることに重点を置かれていることが多く、平水時のみの情報であることがほとんどである。
一方これまでの多くの研究から、集水域から流出する窒素の濃度や起源は水文条件に強く影響されることが知られている。また洪水時は流量が増加するため、集水域から下流域に流出する窒素量も多い。つまり下流域への窒素供給という意味においては、平水時における窒素流出濃度分布測定による、土地利用が集水域からの窒素流出に与える影響の情報は不確実性が高い。他方、集水域からの窒素流出に対する水文条件の影響を明らかにした研究は、少数の集水域、小規模な集水域に焦点を当てた研究が多く、こちらは空間的な不確実性が高い。つまり、下流域への窒素供給に焦点を当てた場合、集水域からの窒素流出に関して、時間的、空間的共に代表性のある実測値・知見はあまりない。そのため、モデルなどによる大規模集水域からの窒素流出量計算では様々な仮定を置く必要がある。
そこで本研究は集水域からの窒素流出に関して、上記の不確実性を明らかにするために、集水域からの窒素流出に与える水文条件と土地利用の影響を同時に解析することを目的とした。そのため、滋賀県に位置する土地利用パターンの異なる20の集水域(10.3-369.7km2)の河口付近において、約2年半の間に大規模降雨を含む計29回の異なる水文条件下で水質調査を行なった。対象とした窒素化合物は全窒素(TN)、溶存全窒素(DN)、粒子状窒素(PN)、溶存有機態窒素(DON)、硝酸イオン(NO3-)、アンモニウムイオン(NH4+)とし、硝酸の窒素・酸素安定同位体比(d15N-NO3-、d18O-NO3-)も測定することにより、硝酸イオンの起源についても考察した。
集水域からの窒素流出濃度を目的変数とし、河川水位、集水域の森林率を説明変数として、交互作用を含む重回帰式で解析した。その結果、集水域の森林面積割合と集水域から流出する窒素化合物濃度の関係に与える水文条件の影響は以下の6パターンに分類することができた。すなわち、低水位から高水位の水文条件になるにつれて集水域の森林面積割合との関係が、(1)傾きが負から増加して正になり、切片も上昇:PN、(2)傾きが負から増加して正になり、切片は低下:NO3-、(3)傾きが負から増加するが負のまま、切片は低下:DTN、(4)傾きが負から増加して0になり、切片は一定:TN、(5)負の傾きがさらに大きくなり切片は一定: d15N-NO3-、(6)傾き、切片ともに一定: DON、NH4+、d18O-NO3-に分類できる。これらのことは窒素化合物ごとに集水域の土地利用と窒素化合物濃度の関係に及ぼす水文条件の影響が異なること、大規模な降雨において窒素の総流出量であるTNは土地利用の影響をほとんど受けないことを示している。集水域からの窒素流出に関して土地利用の影響がほとんどなくなることは、これまでの平水時の観測結果とは大きく異なる点である。発表時には個々の窒素化合物の変動要因も報告する。