日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] ジオパーク

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:15 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:尾方 隆幸(琉球大学大学院理工学研究科)、大野 希一(鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会事務局)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所)、青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、座長:田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、大野 希一(鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会事務局)、尾方 隆幸(琉球大学大学院理工学研究科)

09:00 〜 09:15

[MIS11-06] まちなかにおけるジオパークとの連携活動と課題−富山市街地における例−

★招待講演

*安江 健一1 (1.富山大学)

キーワード:教育、保全、活断層、呉羽山、まち歩き

富山は,山と海に囲まれており,周囲には3,000 m 級の飛騨山脈と水深1,000 m を超える富山湾が広がっている.わずか数十kmの間に 4,000 m の高度差をもつ珍しい地域である.この地域の東側と富山湾の一部は,立山黒部ジオパークのエリアである.このエリア内にある富山市は,公共交通を軸としたコンパクトシティの先進都市であり,これまで進めてきたまちづくりの実績を踏まえつつ,健康づくりと融合した歩きたくなるまちづくりを推進している.本発表では,この富山市の歩きたくなるまちづくりに関連して,一般社団法人立山黒部ジオパーク協会(以下,協会),大学,NPO法人などが連携して取り組んでいる活動を紹介する.
協会では,市街地におけるジオパーク活動の浸透が課題の一つとなっている.そこで,「とやまし元気づくりプロジェクト」に取り組む認定NPO法人まちづくりスポットと協会,これらに関わる個人が集まって検討し,地域の地形・地質や歴史を学びながらまちなかを散策する「まちなかジオツアー」を企画し,2019年度から年に5回程度開催している.このツアーでは,参加者が身近な地形・地質などを学びながら散策し,世代を越えてお互いの持つ情報や知識を共有し,参加者が自ら進んで取り組むまち歩きとなるように心がけている.また,参加者が見るものに対して不思議に思えるようになって自ら調べに行く意欲が増すことで,歩く機会が自然と増加することも期待している.さらに,毎回のつながりが感じられるために,「水害」や「神通川」をテーマにしたストーリーづくりをした.新型コロナウイルスの影響で実施できない時には,オンラインで取り組みを継続した.グループにわかれて画面共有した地図に参加者が持っている情報を集めて,まち歩きコースを考えて,ツアーが可能になった際にそのコースを歩いた.また,大雪の影響で実施が困難だった場合には,スタッフだけが歩いてオンラインでツアーを実施したこともあった.この活動の課題の一つが,参加者が主体的・対話的になるように案内するガイドの技術である.そのため,ファシリテーションのスキルをツアーに適用するジオガイドスキルアップ研修などもおこなった.
「まちなかジオツアー」において大切な場所の一つに呉羽山がある.呉羽山は,富山県のほぼ中央に位置する標高約80mの山である.この山を含む丘陵は呉羽山丘陵と呼ばれ,富山平野を二分し,古くから文化や風習の境目にもなってきた.この山は,呉羽山断層という活断層の運動によって形成されている.活断層であることから,地震防災の観点から重要である.さらに,この山の形成が神通川の流路の変更,富山特産の鱒寿司や呉羽梨にも関連しており,ジオ・エコ・ヒトのつながりを楽しく学ぶことができる.そこで,2020年度にオンライン環境を使って学生が呉羽山断層などの勉強会を6回行った.参加者は,呉羽山で見られる地形・地質や呉羽山断層について,論文等の情報,撮影した写真,作成した図などを共有した.さらにこれらの情報などを使って案内書を作成し,ジオパーク関係者などに参加いただき現地見学会を開催した.この取り組みは,日本活断層学会の普及教育委員会において試行的に実施したものである.この経験を踏まえて,日本活断層学会では,専門家でない人を対象に5回のオンライン勉強会と1日の現地見学会からなる「活断層オンラインワークショップ」を2021年度に阿寺断層,2022年度に根尾谷断層において開催した.このワークショップには,日本各地でジオパークに関わっている方も参加している.
この呉羽山においては,地質を教育や観光,さらには防災リテラシーの向上などに活用できるように,露頭を保全する活動を行っている.富山市民俗民芸村の陶芸館の北東側には,断層運動によって北西側へ傾く地層を観察できる.多くは法面保護が行われたが,一部が地層の観察ができるように保全されている.この保全においては,富山市にご理解いただき,富山大学の学生,協会が協力して取り組んだ.また,この地層の重要性を知ることができる看板の図を学生が中心となって制作した.呉羽山の中腹付近では,神通川によって運ばれた礫が隆起したことを示す礫層を観察することができる.礫層が見えるポイントまでの散策道は,急で滑りやすく危険であったため,NPO法人きんたろう倶楽部,協会,大学生,教員が協力して,階段をつける活動を行なった.このような「活断層に関連する地形・地質の保護・保全の現状と展望」を考えるシンポジウムを協会が共催して日本活断層学会2020年度秋季学術大会にて開催した.さらに,2021年度秋季学術大会の後の巡検では,上述した露頭を観察した.このような地質遺産を保護・保全する活動を持続させて,教育や観光に活用していくことが大切である.