日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 結晶成⻑、溶解における界⾯・ナノ現象

2023年5月21日(日) 15:30 〜 16:45 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院理学研究科)、佐藤 久夫(日本原燃株式会社埋設事業部)、塚本 勝男(東北大学)、座長:三浦 均(名古屋市立大学大学院理学研究科)

15:45 〜 16:00

[MIS14-06] 分子動力学シミュレーションによる高過飽和ガスの鉄の凝縮核生成

*田中 今日子1,2木村 勇気3 (1.東北大学、2.日本大学、3.低温科学研究所、北海道大学)

キーワード:核生成、鉄、分子動力学シミュレーション

気相からの凝縮核生成過程は幅広い分野で重要なプロセスであるが,最初にできる凝縮核がナノサイズより小さいため,その生成率を精度よく予言する一般的な理論は未だ存在しない。室内実験より得られた核形成率は,広く用いられてきた核生成の古典的理論が与える値よりも,桁で異なることが報告されており,核生成理論の大きな問題となっている。 この問題を解決するため分子動力学(MD)シミュレーションを用いた研究が近年多数行われているが,調べられた物質は限られている。本研究では鉄の気相からの凝縮核生成過程のMDシミュレーションを行った。 鉄は地球の主要な材料物質であり、その凝縮過程は宇宙での固体の物質創成を考える上でも重要なプロセスとなる。 これまで鉄の気相からのMDシミュレーションの研究例はあるが,理論との詳細な比較はされていなかった[1]。 本研究ではMD計算汎用コードであるLAMMPSを用い、鉄の相互作用ポテンシャルはEAM: embedded atom method [2]を使用して計算を行い, 理論との比較を行った。 従来の研究 (N=343-1331)より粒子数を増やし(N=10000-100000), 温度はT=300Kから1200K, 過飽和比Sはln S=20-130の範囲で計算を行った。従来の研究より, 数桁多い粒子数を用いた計算を行うことにより,これまでより数桁低い核生成率で進行する現象を再現することが出来た。 核生成のMD計算結果を核生成理論を比較するためには, バルクの表面張力などの物性値が必要であるため, 気液平衡系のMD計算を新たに行うことにより物性値を導出した。 理論との比較検討を行った結果,今回計算した核生成条件では臨界核の値が非常に小さく,臨界核は1と見積もられた。また, 核生成率は理論的な見積りよりも桁で小さくなることが分かった。この理論とMD計算結果の違いの原因は分子が成長する際の分子の付着確率にあると考えられる。付着確率は核生成率に比例し,核生成理論では分子の付着確率を単純に1とする場合が多いが自明ではない。MDシミュレーションを行うと,分子クラスターの成長率から, 分子クラスターに遭遇したモノマー分子が付加される確率として付着確率を推定できる。さまざまな温度圧力条件で計算した結果,付着確率は温度と過飽和度に依存することが示された。また今回行った温度圧力範囲においては凝縮する際のダイマー生成が困難であるという結果が得られた。ダイマー生成の困難については他の物質でも指摘されており [3,4],また近年の鉄の核生成の無重力実験の結果 [5]とも整合的である。

参考文献
[1] N. Lummen & T. Kraska, Aerosol Science, 36 (2005) 1409
[2] M. I. Mendelev, S. Han, D. J. Srolovitz, G. J. Ackland, D. Y. Sun & M. Asta, Philosophical Magazine, 83 (2003) 3977
[3] A. E. Korencnecko, A. G. Vorontsov, B. R. Gelchinski & G. P. Sannikov, Physica A, 496 (2018) 147
[4] M. Lippe, S. Chakrabarty, J. J. Ferreiro, K. K. Tanaka, R. Signorell, J. Chem. Phys. 149 (2018), 244303
[5] Y. Kimura, K. K.Tanaka, T. Nozawa, S. Takeuchi & Y. Inatomi, Science advances, 3 (2017) e1601992