日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 古気候・古海洋変動

2023年5月23日(火) 09:00 〜 10:15 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)、座長:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

09:15 〜 09:30

[MIS15-02] 始新世温室地球における気候の長期トレンドの要因:海水オスミウム同位体比に基づく考察

*桑原 佑典1安川 和孝1,2大田 隼一郎2,3矢野 萌生3,2見邨 和英3,2田中 えりか4,3藤永 公一郎3,2中村 謙太郎1,2加藤 泰浩1,2 (1.東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻、2.東京大学大学院工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンター、3.千葉工業大学次世代海洋資源研究センター、4.高知大学海洋コア総合研究センター)

キーワード:前期始新世気候最適期、オスミウム同位体、炭素循環、化学風化、温室地球

新生代の長期的な気候トレンドにおいて,古第三紀暁新世から始新世(66 Ma –34 Ma: Maは100万年前を表す)は最も温暖な「温室地球」であったことが知られている[1].暁新世後期以降,温暖化が進行し,始新世前期には「始新世気候最適期 (EECO) 」とよばれる温暖化のピークに達した.その後,気候は寒冷化に転じた.こうした古第三紀前期における長期的な温暖化とその後の寒冷化の要因については多くの仮説が提案されているが,その根本的な要因については現在も議論が続いている.
本研究では,海水のオスミウム同位体比(187Os/188Os)を,珪酸塩鉱物の化学風化や火成活動などの固体地球の活動の強度を示すプロキシとして用い,古第三紀の気候トレンドとの関連を考察した.海洋のOs同位体比は,大陸地殻の風化による放射壊変起源のOsフラックス(187Os/188Os > 1.0)と,マントル物質や地球外からの流入による非放射壊変起源のOsフラックス(187Os/188Os = 0.12–0.13)の両者の流入量の相対強度を反映する[2].よって,海水 Os 同位体比を復元することで,海洋への各流入フラックスの変動を鋭敏に捉えることができる.
本発表では,インド洋のExmouth Plateau(ODP Site 762C)とKerguelen Plateau(ODP Site 738C)の炭酸塩堆積物から復元した,古第三紀初期における海洋Os同位体比の長期記録を報告する.さらに,海水Os同位体比記録に基づく1-box同位体マスバランスモデリングを行うことで,海洋に流入した大陸起源物質とマントル起源物質の相対的な寄与を定量的に議論し,始新世前期の長期的な気候トレンドの要因に対する新たな制約を与える.