日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 古気候・古海洋変動

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (22) (オンラインポスター)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MIS15-P07] 貝形虫化石群集を用いたMIS54〜49の三浦半島における古海洋変動

*山田 桂1、加藤 真由子1野崎 篤2宇都宮 正志3間嶋 隆一4 (1.信州大学、2.平塚市博物館、3.産業技術総合研究所、4.放送大学)

キーワード:更新世、上総層群、貝形虫化石

房総半島および三浦半島には,後期鮮新世から更新世に堆積した上総層群が広く分布する.これらのうち,房総半島の下部〜中部更新統の地層を対象に,高い時間分解能での複合的な研究が行われてきた(Kubota et al., 2021ほか).一方で房総半島より浅い海域で堆積した三浦半島においては,地層全体を包括した古環境復元にとどまり,数万年スケールでの古環境変遷は検討されてこなかった.近年,横浜地域に分布する小柴層は,浮遊性有孔虫化石の酸素同位体比により,MIS 57~49に形成されたことが明らかにされた(Nozaki et al., 2014)ものの,氷期―間氷期サイクルに対応する古環境変遷は検討されていない.そこで本研究では,小柴層を対象とし貝形虫化石群集を用いて氷期―間氷期スケールでの古環境変遷を明らかにすることを目的とした.
 神奈川県横浜市南部の「瀬上市民の森」自然公園およびその周辺には,上総層群の野島層,大船層,小柴層が露出する.小柴層は主に泥質砂岩,細粒砂岩および中粒砂岩からなり,上方へ粗粒の堆積物へと変化する.同層には岩相の異なる火山灰層が多数挟在され,各ルートの地層は火山灰層の岩相および組み合わせにより,正確に対比可能である.本研究では,同地域の3ルートおよび北西部で採取されNozaki et al. (2014)により浮遊性有孔虫化石が検討されたコアJから計70試料を選択し,貝形虫化石群集を検討した.その結果,54試料から少なくとも42属86種の貝形虫化石が確認された.産出した貝形虫化石は,Schizocythere kishinouyeiが最も卓越し,多くの試料で50%程度を占めた.次いでLaperousecythere robusta,Baffinicythere ishizakii,Cytheropteron miurenseなどの浅海帯に生息するタクサが高い割合を占めた.また,Aurila属やNeonesidea oligodentataなどの浅海砂底や海藻に生息するタクサも産出した.
 群集変化を引き起こす要因を明らかにするため,Qモード因子分析を行なった.その結果,第4因子までで全体の94%を説明できた.第1因子は暖流影響下の沿岸砂底に普遍的に生息するSchizocythere kishinouyeiが高い因子得点を示した.第2因子はLaperousecythere robustaBaffinicythere ishizakiiが高い負の因子得点を示し,寒冷な下部浅海帯の環境を示すと推察された.第3因子はNeonesidea oligodentataAmbostracon ikeyaiなど沿岸砂底や葉上種が高い因子得点を示し,温暖な上部浅海帯を示唆すると判断された.第4因子はCytheropteron miurenseCytheropteron sp. 1など外洋の影響を強く受ける温暖な下部浅海帯種が高い因子得点を示した.第1因子の因子負荷量は下部および最上部を除いて高い値を示し,同地域の小柴層は総じて沿岸砂底で堆積したことが示唆された.また,第2および第3因子の因子負荷量は変動しながらも下半部,上半部でそれぞれ高い値を示すことから,同地域は寒冷な下部浅海帯から温暖な上部浅海帯が卓越する環境へと変化したと推察される.同地域の浮遊性有孔虫殻の酸素同位体比は上方へ徐々に低下することから,水温上昇を示した貝形虫化石の結果と矛盾しない.浮遊性有孔虫の酸素同位体比に基づくMIS54〜49の期間では,最も寒冷な環境を示唆する第2因子と温暖な環境を示唆する第3因子の因子負荷量はそれぞれ3回の増加が認められ,水温変動が起こっていたことを示した.しかし,それらの増加は浮遊性有孔虫の酸素同位体比のピークとは一致せず,その移行期に認められた.また,最も深い環境を示す第4因子の因子負荷量(外洋の影響を強く受ける下部浅海帯)はMIS 53と51の直前で高い値を示した.