日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 古気候・古海洋変動

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (22) (オンラインポスター)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MIS15-P31] 日本の降水酸素同位体比の地理的特性と石筍古気候学での考察

*狩野 彰宏1 (1.東京大学大学院理学系研究科)

キーワード:降水酸素同位体、量的効果、石筍古気候学

石筍古気候学は陸域気候の復元とその変動の将来予測にとって大きな可能性を持つ。特に酸素同位体比を用いた研究は欧米諸国や中国などから多数の報告例があり,後期更新世以降のモンスーン強度や気温変化についての知見を示してきた。石筍の酸素同位体比は気温と降水の酸素同位体比に関係しており,多くの研究は後者の影響が大きいと示唆する。しかし,降水の酸素同位体比の解釈はそれほど単純ではない。中国で示されてきた降水量との逆相関関係(量的効果)は近接する日本の記録では明瞭に現れない。
そこで,本研究では過去数年間に日本列島の4カ所(糸魚川市,大垣市,福岡市,三重県大紀町)で採集された雨水試料の分析結果を用いて,降水同位体比に関わる年間降水量と降水の季節性の効果について検討した。本研究ではモンテカルロ的な統計解析を採用した。解析では,その場所の年間降水量に近い値になるまで,雨水サンプルをランダムに抽出し,総降水量と酸素同位体比の荷重平均値を計算し,仮想一年の値として採用する。この計算を各地点につき数百回行い,酸素同位体比の荷重平均値と総降水量および冬季の降水率(11~2月の降水量が年間降水量に占める割合)との相関関係を検討した。
その結果,有意な量的効果は糸魚川市のみで観測された。酸素同位体比の季節性との相関も糸魚川市で最も高かった。ここでは冬の豪雪が降水酸素同位体比の重要な支配要因になっていると考えられる。逆に,大紀町の酸素同位体比は総降水量と降水季節性との相関は全くなかった。水蒸気ソースである太平洋に隣接する大紀町では,水蒸気経路で起こる分別効果は小さく,酸素同位体比は降水量の影響を受けにくいと思われる。