日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] 津波堆積物

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:15 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)、谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、中西 諒(東京大学大気海洋研究所)、座長:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

14:15 〜 14:30

[MIS16-03] 2011年東北地方太平洋沖地震の津波浸水高・津波堆積物の堆積層厚分布から推定される初期津波波源モデル

*楠本 聡1今井 健太郎1堀 高峰1菅原 大助2 (1.海洋研究開発機構、2.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:2011年東北地方太平洋沖地震、津波痕跡高、津波堆積物

計器観測記録のない歴史時代,特に中世以前の古文書記録は信頼度が低く津波来襲時における遡上限界や津波到達点を計測することができないことも多いため,津波規模の推定が困難な場合が多い.津波堆積物はその土地の津波来襲を示す地質学的証拠となるものの,堆積層厚と津波浸水高の関係は複雑であり,津波堆積物のみで津波規模を推定することについても課題は多い.そこで本研究では,2011年東北地方太平洋沖地震津波を例に,津波伝播と津波土砂移動の数値シミュレーションと津波浸水高・津波堆積物の堆積層厚分布の比較から津波波源を推定可能かどうかについて検討した.
東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループによって調査された津波痕跡点のうち,緯度35~41度の範囲に痕跡信頼度Aの津波浸水痕跡は2364点ある(Mori et al., 2013).これは沿岸の最小計算格子間隔(2 arc-sec; Chikasada, 2020)に対してあまりに高密度であるため,0.1度刻みで平均化して60点とした.初期津波波源はSatake et al. (2013)の断層の時空間的すべりを考慮した55枚小断層モデル(Model 1)を参考に,小断層の平均すべり量や断層破壊領域を変更した8つの津波波源モデル(Models 2~9)を用意した.津波伝播と津波土砂移動の数値計算にはそれぞれJAGURS(e.g., Baba et al. 2015, 2017),TUNAMI-STM(e.g., 高橋ほか1999, Sugawara et al., 2019)を使用した.津波堆積物の検討に用いる調査地は岩手県宮古市の沼の浜(e.g., Goto et al., 2015),宮城県仙台市~山元町の仙台平野(e.g., Abe et al., 2012),福島県南相馬市の井田川低地(Kusumoto et al., 2018)とした.
津波浸水高と計算津波高の比較から,Models 1, 4, 5が観測と整合的であることが分かった.Models 4, 5はすべりの時空間変化を考慮せずSatake et al. (2013)の小断層のすべり量をそれぞれ1.5倍と2倍にしたモデルであり,津波浸水高と計算津波高の比較だけでは津波規模を過大評価する可能性があることを示唆している.次に,津波堆積物の観測堆積層厚と計算堆積層厚を比較した.井田川低地ではModels 1, 2,仙台平野ではModels 1, 2, 6が観測と整合的であった.ここでModel 2は断層すべりが時空間変化しない55枚小断層モデル,Model 6は海溝軸沿い浅部の断層破壊を伴わない津波波源であり,海溝軸付近の大滑り域を見逃す可能性があることを示している.一方,沼の浜ではどのモデルで数値計算を行っても観測より過小評価となった.これは沼の浜の津波堆積物は主に礫から構成されるため,TUNAMI-STMで採用されている浮遊砂・掃流砂の算定式に当てはまらないことに起因する可能性がある.
以上のように,津波浸水高や津波堆積物単体では津波規模を部分的にしか推定できない.しかしながら,初期津波波源がModel 1であれば,津波浸水高・津波堆積物の堆積層厚分布の両方を説明することはできる.津波伝播・土砂移動の数値シミュレーションと津波浸水高,津波堆積物の堆積層厚を組み合わせることで初期津波波源の推定精度を高めることが可能であろう.津波堆積物の保存状態次第で堆積層厚が変わってしまうことを考慮する必要はあるが,この推定手法により南海トラフ巨大地震のように歴史時代に発生した津波の規模の推定が可能になるかもしれない.

謝辞:本研究は R2-6年度文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」(研究代表者:海洋研究開発機構 小平秀一)の一環として行われました.