日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] 津波堆積物

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:15 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)、谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、中西 諒(東京大学大気海洋研究所)、座長:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

15:00 〜 15:15

[MIS16-06] 仙台平野における津波起源侵食地形の探索

*吉池 奏乃1菅原 大助2石澤 尭史2 (1.東北大学、2.東北大学 災害科学国際研究所)


浜堤列と堤間湿地が発達する仙台平野は津波堆積物の保存に適しており,これまで869年貞観地震津波,1454年享徳地震津波,1611年慶長奥州地震津波に加え,4-5世紀頃,約2000年前,紀元前3-4世紀頃の津波による堆積物の存在が報告されている.しかし,貞観地震津波の後2011年東北沖津波まで,仙台平野において津波による大規模浸水を示す歴史記録は知られていない.津波堆積物については,微地形等の影響で生じた層厚の局所的な変化や堆積物試料の年代の誤差から,報告されている堆積物の分布や年代にばらつきがある.特に地表から浅い地層は人為的な撹拌・削剥の影響で保存状態が悪いことが指摘されており,不完全な記録に基づいて評価された波源域や規模,再来間隔については見解が分かれている.海岸域では,津波による堆積作用で侵食地形が形成される.古津波記録としての侵食地形に着目した既往研究は現時点では少数であるが,津波堆積物の保存状態が悪い地域において,侵食地形に着目することで未知の津波の痕跡を捕捉できると考えられる.実際にTakeda et al.(2018)やVelasco et al.(2019)では地中レーダーを用いて判読した地中のくぼみにおいて津波堆積物の保存ポテンシャルが高いことが示されている.
 本研究では,地中レーダー(Ground-penetrating radar; GPR)を用いて,仙台平野においてこれまで見落とされてきた津波堆積物や津波による侵食地形を検出することを試みた.津波堆積物と津波による侵食地形の複合的な検討は,地質記録が不完全な時代・地域において,古津波に関する地質記録を得るための有望なアプローチになると考えられる.研究対象地域は,仙台平野北部に位置する宮城県仙台市若林区荒浜地区の大沼と南長沼の周辺である.大沼は現在の海岸線から約2 km内陸の第Ⅱ浜堤列よりも西(内陸)側に,南長沼は第Ⅱ浜堤列よりも東(海)側に位置する海跡湖沼である.
 大沼海側で取得した現在の海岸線に対して直交する方向のGPR画像は,水平かつ海側に傾斜して下位にダウンラップするほぼ連続した反射面が見られ,これは前浜・後浜堆積物の特徴に一致する.この地域では海岸線の前進に従って浜堤列が連続的に形成され,その間の小規模な堤間湿地がイベント砂層やテフラを挟在しながら有機質シルトによって埋積されていったと考えられる.南長沼海側でも大沼同様の特徴を確認することができた.しかし,浜堤列Ⅲa上にあたる部分では,海浜堆積物と見られる反射面を切る陸側に傾く反射面が認められ,その陸側に幅約40 m,深さ約1.0 mの下に凸の強い反射面が認められた.この埋没凹地上で掘削した柱状試料の層相は有機質シルト層が形成される湿地環境を示し,約100年前の古地図に記載されている現存しない沿岸湖沼の位置とおおむね一致している.これは何らかの要因で局所的に標高の低い地形が浜堤上に形成されたことを示唆している.埋没凹地より内陸の掘削試料には915年あるいは932年に降下したとされる十和田a(To-a)テフラが認められたが,埋没凹地を埋積する有機質シルト層およびその下位の浜堤砂中には認められなかったことから,地表の侵食はテフラ降下後に起こったと推定される.また,埋没凹地の有機質シルト層基底から得られた種子の年代は1035-1169年を示したことから,侵食地形の形成時期は915年あるいは932年以降,1035-1169年以前であると推定された.この時,埋没凹地の海側には浜堤列Ⅲbが形成され始めていたと考えられるので,浜堤を越流して侵食地形を形成しうる津波や高潮のオーバーウォッシュによる侵食痕である可能性が高い.
 侵食地形の周辺で採取した試料からは,堆積学的特徴からイベント砂層と推定される3つの砂層(Sand 1~3)が検出された.年代測定の結果,Sand 1は西暦1272-1426年,Sand 2は1033-1259年,Sand 3は130-426年に制約された.Sand 2の年代は,南長沼海側の埋没凹地の形成年代に重なっている.それぞれ現在の海岸線から約1.0,1.98,1.67 kmの場所で掘削しており,近くに河川が存在しないこと,平均粒径および淘汰度が洪水堆積物よりも海浜堆積物に類似していることから,イベント砂層は海浜起源である可能性が高い.Sand 1と2の年代は既知の歴史津波の年代と合致しないが,先行研究に同様の年代を示すイベント砂層の報告があり,歴史記録にない津波または高潮によって堆積した可能性がある.Sand 3の年代は4-5世紀頃の津波の年代に対応しているが,採取地点は当時の海岸線に近かった可能性があり,高潮・高波や,4-5世紀頃の津波とは別の津波が起源である可能性が考えられる.