10:45 〜 12:15
[MIS19-P01] 種子島沖第15海底泥火山の噴出堆積物中から採取されたメタンハイドレートの起源
キーワード:海底泥火山、メタンハイドレート、間隙水、種子島
世界各地の大陸縁辺の陸上または海底に分布する泥火山は,高間隙水圧を持った堆積物が,海底表層まで上昇し地表に噴出した地形であり,地下深部の流体を地表に放出している.特にメタンの放出は,大気・海洋への主要な放出源の一つとなっている.日本近海では紀伊半島沖熊野海盆と,種子島沖に広く分布している.現在,種子島沖の泥火山は15個確認されており,MV#01~#15まで番号がつけられている.2021年12月~2022年1月に行われた東北海洋生態系調査研究船「新青丸」のKS-21-27次航海では,MV#08 (30˚46´N, 131˚36´E),MV#10 (30˚24´N, 131˚25´E),MV#15 (31˚04´N, 131˚41´E)の堆積物をピストンコアラー・マルチプルコアラーで採取した.MV#15で採取した堆積物からはメタンハイドレートが回収された.本研究では,MV#15で回収されたメタンハイドレートを構成するメタンおよび水の起源を明らかにすることを主な目的として,間隙水とガスの化学分析を行った.比較のために,同航海で調査を行ったその他の泥火山(MV#08,MV#10)の間隙水・ガスの化学分析も併せて行い,種子島沖海底泥火山群の流体の起源について考察した.
各泥火山で採取された堆積物から間隙水を抽出し,間隙水中のCl⁻濃度,間隙水の水素・酸素安定同位体比(δD, δ18O)を測定した.また堆積物中の炭化水素ガスについてメタンの炭素・水素安定同位体比(δ13C, δD),メタン/エタン濃度比(C1/C2),メタンの生成温度の指標となるメタンクランプトアイソトープ(Δ13CH3D)を測定した.
MV#15の間隙水のCl⁻濃度は,104~143 cm below seafloor (cmbsf)で海水の値(約550 mM)よりも低く271~340 mMであった.海水より低いCl⁻濃度は,海水由来の間隙水に淡水が加わり希釈されたことを示す.δD,δ18Oの値はCl⁻濃度の低下とともに大きくなり強い相関を示した.Cl⁻濃度を0 mMに外挿して得られた淡水のδD,δ18O(以下端成分と呼ぶ)を求めたところδD値が+19.6‰,δ18O値が+4.2‰であった.この値はメタンハイドレート中の水分子の同位体の特徴であることから,間隙水のCl⁻濃度の低下は,堆積物回収時にメタンハイドレートが融解して放出された水によるものであることが示された.Cl⁻濃度の低下の割合は,メタンハイドレートの融解水が加わった量を示すため,その割合から求めたメタンハイドレートの堆積物孔隙中の飽和度は42~55%であった.
この飽和度と泥火山堆積物の平均孔隙率(50%)からメタンハイドレートとして含まれる堆積物中のメタンの量を見積もったところ0.098 m3 CH4/m3 Sediment(STP)であった.この堆積物中のメタンがMV#15の山頂(直径350 m)に一様に分布すると仮定すると,MV#15のメタン含有量は約190万m3と見積もられる.
メタンハイドレート中の水のδD,δ18O(+19.6‰,+4.2‰)と水-メタンハイドレート間の同位体分別係数から,メタンハイドレート形成時の起源となった水のδD,δ18Oを求めたところ,δD値は-4.33~+2.52‰,δ18O値は+0.82~+1.82‰であり,粘土鉱物の脱水由来の水の特徴を示した.海底堆積物中で一般的な粘土鉱物の脱水反応であるスメクタイト-イライト反応は堆積物の埋没による地温の上昇により60~160℃で起こるとされている.
一方,MV#10のδD値はCl⁻濃度の低下とともに小さくなり,δ18O値はCl⁻濃度の低下とともに大きくなり,どちらも強い相関を示した.Cl⁻濃度を0 mMに外挿して得られた端成分を求めたところδD値が-7.5‰,δ18O値が+10.6‰であった.これは粘土鉱物の脱水由来の水の特徴を示す.求めた粘土鉱物の脱水由来の水のδDおよびδ18Oと,粘土鉱物の脱水時の水素・酸素同位体分別と温度の関係から,粘土鉱物が脱水した際の温度を見積もったところ110~185℃であった.種子島沖海底の地温勾配(25~50℃/km)から粘土鉱物の脱水反応が起こった深度を見積もると2~7 kmであった.
MV#08の間隙水のCl⁻濃度,δD,δ18Oは,表層からコア採取深度の215 cmbsfまで海水の値から変化しなかったため,深部からの水の供給やメタンハイドレートの生成はなく,MV#08は活動を停止した泥火山である考えられる.
メタンの起源は低温下でメタン菌の代謝によって生成する微生物起源と埋没した有機物が高温下(80~230℃)で分解され生成する熱分解起源がある.それらのメタンの起源を特定する指標として,δ13C,δD,C1/C2が使われている.MV#15のメタンハイドレートを融解して得られたメタンのδ13C値(-54~-47‰),δD値(-205~-171‰)はハイドレートを構成するメタンが熱分解起源であることを示した.メタンのΔ13CH3D(3.15±0.52‰)から見積もられた見かけの生成温度は141 +39/-32℃であった.この温度はメタンハイドレート中のメタンがほぼ熱分解起源であることを示唆する.微生物起源メタンの混合の可能性を考え,メタンのΔ13CH3D,δ13C,δDを用いたミキシングモデルによると,微生物起源の一般的なメタン生成温度条件(4~60℃)のとき,微生物起源メタンの混合率は20%以下であった.微生物起源ガスの混合が20%のとき,熱分解起源ガスの生成温度は158~223℃となり,地温勾配から見積もった熱分解起源メタンの生成深度は3~8 kmである.
以上の結果から,MV#15では,海底下約3 km以深,160℃以上の地下深部の高温下で形成された熱分解起源メタンが,水とともに海底面付近まで供給され,メタンハイドレートが形成されていることが明らかとなった.
各泥火山で採取された堆積物から間隙水を抽出し,間隙水中のCl⁻濃度,間隙水の水素・酸素安定同位体比(δD, δ18O)を測定した.また堆積物中の炭化水素ガスについてメタンの炭素・水素安定同位体比(δ13C, δD),メタン/エタン濃度比(C1/C2),メタンの生成温度の指標となるメタンクランプトアイソトープ(Δ13CH3D)を測定した.
MV#15の間隙水のCl⁻濃度は,104~143 cm below seafloor (cmbsf)で海水の値(約550 mM)よりも低く271~340 mMであった.海水より低いCl⁻濃度は,海水由来の間隙水に淡水が加わり希釈されたことを示す.δD,δ18Oの値はCl⁻濃度の低下とともに大きくなり強い相関を示した.Cl⁻濃度を0 mMに外挿して得られた淡水のδD,δ18O(以下端成分と呼ぶ)を求めたところδD値が+19.6‰,δ18O値が+4.2‰であった.この値はメタンハイドレート中の水分子の同位体の特徴であることから,間隙水のCl⁻濃度の低下は,堆積物回収時にメタンハイドレートが融解して放出された水によるものであることが示された.Cl⁻濃度の低下の割合は,メタンハイドレートの融解水が加わった量を示すため,その割合から求めたメタンハイドレートの堆積物孔隙中の飽和度は42~55%であった.
この飽和度と泥火山堆積物の平均孔隙率(50%)からメタンハイドレートとして含まれる堆積物中のメタンの量を見積もったところ0.098 m3 CH4/m3 Sediment(STP)であった.この堆積物中のメタンがMV#15の山頂(直径350 m)に一様に分布すると仮定すると,MV#15のメタン含有量は約190万m3と見積もられる.
メタンハイドレート中の水のδD,δ18O(+19.6‰,+4.2‰)と水-メタンハイドレート間の同位体分別係数から,メタンハイドレート形成時の起源となった水のδD,δ18Oを求めたところ,δD値は-4.33~+2.52‰,δ18O値は+0.82~+1.82‰であり,粘土鉱物の脱水由来の水の特徴を示した.海底堆積物中で一般的な粘土鉱物の脱水反応であるスメクタイト-イライト反応は堆積物の埋没による地温の上昇により60~160℃で起こるとされている.
一方,MV#10のδD値はCl⁻濃度の低下とともに小さくなり,δ18O値はCl⁻濃度の低下とともに大きくなり,どちらも強い相関を示した.Cl⁻濃度を0 mMに外挿して得られた端成分を求めたところδD値が-7.5‰,δ18O値が+10.6‰であった.これは粘土鉱物の脱水由来の水の特徴を示す.求めた粘土鉱物の脱水由来の水のδDおよびδ18Oと,粘土鉱物の脱水時の水素・酸素同位体分別と温度の関係から,粘土鉱物が脱水した際の温度を見積もったところ110~185℃であった.種子島沖海底の地温勾配(25~50℃/km)から粘土鉱物の脱水反応が起こった深度を見積もると2~7 kmであった.
MV#08の間隙水のCl⁻濃度,δD,δ18Oは,表層からコア採取深度の215 cmbsfまで海水の値から変化しなかったため,深部からの水の供給やメタンハイドレートの生成はなく,MV#08は活動を停止した泥火山である考えられる.
メタンの起源は低温下でメタン菌の代謝によって生成する微生物起源と埋没した有機物が高温下(80~230℃)で分解され生成する熱分解起源がある.それらのメタンの起源を特定する指標として,δ13C,δD,C1/C2が使われている.MV#15のメタンハイドレートを融解して得られたメタンのδ13C値(-54~-47‰),δD値(-205~-171‰)はハイドレートを構成するメタンが熱分解起源であることを示した.メタンのΔ13CH3D(3.15±0.52‰)から見積もられた見かけの生成温度は141 +39/-32℃であった.この温度はメタンハイドレート中のメタンがほぼ熱分解起源であることを示唆する.微生物起源メタンの混合の可能性を考え,メタンのΔ13CH3D,δ13C,δDを用いたミキシングモデルによると,微生物起源の一般的なメタン生成温度条件(4~60℃)のとき,微生物起源メタンの混合率は20%以下であった.微生物起源ガスの混合が20%のとき,熱分解起源ガスの生成温度は158~223℃となり,地温勾配から見積もった熱分解起源メタンの生成深度は3~8 kmである.
以上の結果から,MV#15では,海底下約3 km以深,160℃以上の地下深部の高温下で形成された熱分解起源メタンが,水とともに海底面付近まで供給され,メタンハイドレートが形成されていることが明らかとなった.