日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS22] 歴史学×地球惑星科学

2023年5月21日(日) 09:00 〜 10:30 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(國學院大學)、玉澤 春史(京都市立芸術大学)、座長:加納 靖之(東京大学地震研究所)、玉澤 春史(京都市立芸術大学)

09:15 〜 09:30

[MIS22-02] 富士北麓から見た1707年宝永噴火

*馬場 章1小林  淳2 (1.昭和大学 富士山麓自然・生物研究所、2.静岡県富士山世界遺産センター)

キーワード:富士火山、宝永噴火、歴史史料、大気光学現象

1707年12月16日に富士山南東麓で発生した大規模爆発的噴火は、約100 km離れた江戸にまで降灰被害を及ぼしたことから、記述や絵図が多数残されている。その一方で、複数の史料に死傷者に関する記述が残されているが、その物的証拠が得られていないなど検証の余地がある。本研究では、宝永噴火に関する史料を再検証し、地質調査結果と照合することにより噴火実態の詳細化を図る。
静岡県富士山世界遺産センターに収蔵されている小林謙光富士山資料コレクションの中に「富士山噴火之図」がある。発行は1908年7月30日とあり、A3サイズほどの表面には噴火初日の16日から20日にかけての推移が(一)~(四)の4つにコマ割りされた「富士山噴火之望見真寫図」、裏面には富士偶記として宝永地震及び宝永噴火に関連する文章が掲載されている。この史料は、絵図の構図から富士北麓(現在の富士吉田市付近)で描写されたと推定され、富士宮浅間大社「浅間文書纂」の本宮記録を基に編纂した可能性が示唆される。特筆すべきは、絵図の(一)と(四)には大気光学現象が描写されている点である。宝永噴火の火山噴出物を地質調査・分析した結果と照合すると、Ho-IIIからIVの噴出にかけて半揮発性成分である銅(Cu)が脱ガスしてメルトから分離しており、宝永噴火によって放出された多量の火山ガスが大気光学現象の要因として挙げられる。宝永噴火は主に降下火砕物とその被害が着目されてきたが、メルト包有物の分析から100万トンを超える硫黄が放出されたと試算されており、大気上層へ拡散した硫酸エアロゾルが太陽光を屈折したことが示唆される。宝永噴火の推移を富士北麓から目撃したからこそ、「富士山噴火之望見真寫図」に大気光学現象が描写された可能性が考えられる。