日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] 火山学と気象学の融合

2023年5月23日(火) 09:00 〜 10:15 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 英一(気象研究所)、常松 佳恵(山形大学)、座長:佐藤 英一(気象研究所)、常松 佳恵(山形大学)

09:00 〜 09:15

[MIS23-01] 気象庁の火山灰拡散予測業務のための物理に基づく一次元噴煙モデルの開発

★招待講演

*石井 憲介1、西條 祥2、小屋口 剛博3鈴木 雄治郎3 (1.気象庁気象研究所、2.気象庁地震火山部、3.東京大学地震研究所)

キーワード:火山灰、噴煙、噴煙柱モデル、重力流モデル

現在、気象研究所では火山灰予測の精度向上のため、移流拡散モデルの初期値を計算する噴煙モデルの開発を進めている。この噴煙モデルは、質量保存や運動量保存などの各種保存則(e.g. Woods 1988)や大気風による噴煙の傾きの影響(Bursik 2001; Suzuki and Koyaguchi 2015)、噴煙からの粒子の離脱(e.g. Bursik et al. 1992; Koyaguchi et al. 2009)等、噴煙の物理に関する近年の研究成果を取り入れたモデルであり、東京大学地震研究所で開発されたものをベースにしている。
 開発中の噴煙モデルNIKS-1D(Ishii et al. 2022)の特徴は、密度中立高度(NBL)を境に「噴煙柱モデル」と「風下重力流モデル」の2つのモデルから構成される点にある。噴煙柱モデルでは、火口から放出された鉛直上向きの運動量を持つ火砕物が周囲大気を取り込み混合し、加熱膨張によって浮力を得て上昇していく過程を再現する(e.g. Woods 1988; Bursik 2001)。一方、風下重力流モデルでは、NBLに到達した噴煙が重力流の効果により風向と垂直方向に広がりながら大気風で輸送される過程を再現する(Bursik et al. 1992)。いずれのモデルでも、撹拌沈降理論(Martin and Nokes 1988)に基づき、噴煙の側面や底面から離脱する火砕物の量(SMD: Source Magnitude Distribution)が計算される(e.g. Bursik et al. 1992; Bursik 2001; Koyaguchi et al. 2009)。本噴煙モデルから求まるSMDは、広域気象場での火山灰移流拡散モデルの初期値として利用される。本モデルは噴煙による火砕物輸送に関して以下の基本的な特徴を再現している。すなわち、 (1)粗い粒子ほど噴煙柱からの離脱が支配的であり、逆に細かい粒子ほど NBL に運ばれる傾向がある、(2)風下重力流からの離脱は、粗い粒子ほど火口からの距離とともに急激に減少する、(3)周囲の風が強いほど、風下重力流からのSMDは距離とともに緩やかに減少する、(4)噴出率が大きい噴火ほど、風下重力流からのSMDは、距離に対して緩やかに減少する。
 本モデルでは、噴煙柱モデルによって計算される体積フラックスVplumeを風下重力流モデルの境界条件として用いることで2つのモデルを結合している。風下重力流に流入する体積フラックスVgcmに関しては、噴煙上部付近における乱流や噴煙の上下運動等によって周辺大気が噴煙内部に取り込まれる効果を考慮して推定する必要がある(e.g. Devenish and Cerminara 2018)。そのため、本モデルでは体積フラックスの比Vgcm/Vplumeについて噴出率の関数としたパラメタリゼーションを導入し、その関数の具体形を噴出率の異なる2つの噴火事例における噴煙の衛星画像から推定した。
 本講演では、Ishii et al. 2022に基づき本モデルの詳細及び現業への実装デザインについて発表をおこなう。