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[MSD35-P05] 衛星搭載水蒸気観測用差分吸収ライダー(DIAL)の技術実証〜海上水蒸気観測のためのIPDA-DIALの検討〜
キーワード:水蒸気、ライダー、豪雨
近年日本では線状降水帯による大雨の発生や台風の大型化が防災上大きな社会問題となっている。日本における豪雨災害の発生件数は年々増加しており防災・減災、国土強靱化のための対策が急務となっている。豪雨災害は予測精度を向上させることにより軽減されるが、予測には特に海上の下部対流圏の水蒸気分布情報が重要であることが指摘されている。衛星搭載ライダーは日本周辺海上の水蒸気観測が可能であり、数値予報モデルへのデータ同化により豪雨予測精度の向上が期待される。
現在の水蒸気観測は、ラジオゾンデ、陸域リモートセンシング、衛星の赤外線・マイクロ波センサ、GNSSなどで行われているが、空間及び時間分解能に問題がある。さらに上部対流圏・下部成層圏の境界領域に空白域がある。また、受動的衛星観測は水平方向のカバー領域は広いが、鉛直方向の分解能が不十分である。衛星搭載ライダーは、全球域の高分解能・高品質水蒸気データを提供するとともに、バイアス誤差が無いためパッシブリモートセンシング装置の校正にも利用でき、衛星搭載センサによる面的な観測とのシナジー効果が期待できる。
我々は、1350nmの吸収帯を利用したOPA(Optical Parametric Amplifier)送信機を用いた2ビーム衛星搭載水蒸気DIALを提案している[1]。QPM(Quasi Phase Matching)素子を用いたOPAシステムは、1パスアンプであるため、従来の位相整合型OPO(Optical Parametric Oscillator)に比べて制約が少なく、衛星搭載用として有利である。
水蒸気の鉛直分布と同様に、海面付近の水蒸気量の測定は、豪雨の予測や海洋と大気間のフラックスの推定に重要である。そこで、提案されているDIALミッションの仕様を大きく変えることなく、IPDA(Integrated Path Differential Absorption)技術を用いて、大気後方散乱と海面反射の両方の信号を用いた海面付近の水蒸気のDIAL観測の可能性を検討した。これは大気後方散乱信号よりも強い海面反射信号の差分吸収を利用するものである(添付図)。従来提案したDIALから1ビーム方式にし、衛星軌道高度を250kmから400kmとしプラットフォームに柔軟性を持たせた。この仕様で計算したIPDA-DIALの水蒸気密度のランダム誤差は、水平分解能20kmで、海面から高度300mまでの水蒸気積算量を誤差10%、海面から高度600mまでの水蒸気積算量なら誤差5%で観測することができる。このシミュレーションは夜間を想定しているが、この波長域は水蒸気の吸収により背景光量が少ないため、昼間の観測にも有利である。例えば昼間観測でも海面から高度500mまでの水蒸気積算量を誤差10%で測定可能である。さらにすでに提案されている海面散乱係数からwave slope varianceを求め海上の風速を推定する方法[2]をIPDA-DIALのoff信号に適用することにより、衛星搭載ライダーで大気混合層(熱帯では海面から高度500m前後)の水蒸気量と同時に、海面付近の風速が計測できることになり、客観解析データなどの気温情報と合わせると、潜熱・顕熱フラックスのスナップショット毎の計算が可能になる。現在IPDA実証実験のための、飛翔体搭載型IPDA-DIALの検討を行っている。
参考文献
[1] 阿保真他、レーザセンシング学会誌、1 (2020) 72.
[2] Y. Hu et al., Atmos. Chem. Phys., 8 (2008) 3593.
現在の水蒸気観測は、ラジオゾンデ、陸域リモートセンシング、衛星の赤外線・マイクロ波センサ、GNSSなどで行われているが、空間及び時間分解能に問題がある。さらに上部対流圏・下部成層圏の境界領域に空白域がある。また、受動的衛星観測は水平方向のカバー領域は広いが、鉛直方向の分解能が不十分である。衛星搭載ライダーは、全球域の高分解能・高品質水蒸気データを提供するとともに、バイアス誤差が無いためパッシブリモートセンシング装置の校正にも利用でき、衛星搭載センサによる面的な観測とのシナジー効果が期待できる。
我々は、1350nmの吸収帯を利用したOPA(Optical Parametric Amplifier)送信機を用いた2ビーム衛星搭載水蒸気DIALを提案している[1]。QPM(Quasi Phase Matching)素子を用いたOPAシステムは、1パスアンプであるため、従来の位相整合型OPO(Optical Parametric Oscillator)に比べて制約が少なく、衛星搭載用として有利である。
水蒸気の鉛直分布と同様に、海面付近の水蒸気量の測定は、豪雨の予測や海洋と大気間のフラックスの推定に重要である。そこで、提案されているDIALミッションの仕様を大きく変えることなく、IPDA(Integrated Path Differential Absorption)技術を用いて、大気後方散乱と海面反射の両方の信号を用いた海面付近の水蒸気のDIAL観測の可能性を検討した。これは大気後方散乱信号よりも強い海面反射信号の差分吸収を利用するものである(添付図)。従来提案したDIALから1ビーム方式にし、衛星軌道高度を250kmから400kmとしプラットフォームに柔軟性を持たせた。この仕様で計算したIPDA-DIALの水蒸気密度のランダム誤差は、水平分解能20kmで、海面から高度300mまでの水蒸気積算量を誤差10%、海面から高度600mまでの水蒸気積算量なら誤差5%で観測することができる。このシミュレーションは夜間を想定しているが、この波長域は水蒸気の吸収により背景光量が少ないため、昼間の観測にも有利である。例えば昼間観測でも海面から高度500mまでの水蒸気積算量を誤差10%で測定可能である。さらにすでに提案されている海面散乱係数からwave slope varianceを求め海上の風速を推定する方法[2]をIPDA-DIALのoff信号に適用することにより、衛星搭載ライダーで大気混合層(熱帯では海面から高度500m前後)の水蒸気量と同時に、海面付近の風速が計測できることになり、客観解析データなどの気温情報と合わせると、潜熱・顕熱フラックスのスナップショット毎の計算が可能になる。現在IPDA実証実験のための、飛翔体搭載型IPDA-DIALの検討を行っている。
参考文献
[1] 阿保真他、レーザセンシング学会誌、1 (2020) 72.
[2] Y. Hu et al., Atmos. Chem. Phys., 8 (2008) 3593.