09:00 〜 10:30
[MTT37-P03] 微気圧変動の超多点集中観測の試み
キーワード:微気圧変動、接地境界層、津波早期警戒
1.研究の背景
ラム波は地面に捕捉されて水平方向に音速(約300m/s)で伝播する大気波動であり,津波や火山噴火等で励起される。また,大気ラム波が津波を励起することもある。大気ラム波は津波(典型的には位相速度が約200m/s)より先に到達するため,微気圧測定網を構築してラム波を観測すれば津波の早期警戒に役立つ可能性がある。この可能性を念頭におき,今田と中島(2022)は安価で広範囲に多数設置可能な微気圧観測システムを開発した。測定間隔は 35ms,相対観測精度は0.5Paであり,ラム波だけでなく雷や大気乱流等による微気圧変動も捉える可能性がある。本研究では,上の研究で開発された微気圧計を改良しつつ多数作成し狭い範囲に面的に配置して同時観測を行い,センサの相互比較とデータ取得の実証実験を行うとともに,接地境界層大気擾乱の観測にも適用した。
2.作成した微気圧計測システム
静電容量式MEMS気圧センサ DPS310をマイクロコンピュータM5Stack ATOM LITEにI2C接続して制御しデータを Wi-Fi 接続の UDP 経由で送信する微気圧計を100台作成した。データの保存先はWi-Fi アクセスポイントに有線接続したDebian GNU/Linux 小型サーバーであり,これは同時に NTPサーバーとして微気圧計の時刻基準を提供する。当初は数十個の微気圧計からの小型サーバーへの通信が輻輳する困難が生じたが,一連の試行に基づきデータ通信パラメタと Wi-Fiアクセスポイントの設置方法を調整した結果,満足のいく接続を実現して観測とデータ収集を行うことができた。
3.野外観測
2023年1月12日夜,九州大学伊都キャンパス理系図書館近くの平らな広場で野外観測を行った。100個の微気圧計をほぼ平面上に10×10の格子点に約0.3m間隔で配置し,この領域から約5m離れた位置にWi-Fi アクセスポイントを置き,ほぼ全てのデータ(1分間当たり1714~5個)を受信しつつ約1時間観測を行うことができた。微気圧計間の相対時刻誤差を調べた結果,測定時間間隔の35ms以内と推定され,時間スケールがこれよりずっと長い現象を捉えることは十分可能と考えられる。
4.予備的な解析結果
現在,特に受信状況が良かった 9分間の測定データを解析しつつある。予備的な結果の要点は以下の通りである。
4.1 バイアス
基本場の同じ高さにおける気圧は数m程度のスケールで見ればほぼ等しいとみなせるはずである。そこで,解析期間に先立つ100秒間の測定データを用い,各微気圧計について時間平均とそれの全微気圧計平均との差をその微気圧計のもつ測定誤差としてバイアス補正した。しかし,後述のようにこれでは不十分であった可能性がある。
4.2 気圧センサのノイズ
各微気圧計でスペクトル解析を行い,100点のパワースペクトル密度を平均した。その結果,周期2~3秒程度以下の成分のパワーは各微気圧計間でばらつきが大きく,この成分はセンサのノイズであると考えられる。
4.3 大気擾乱
4.1のバイアス補正の上で1秒移動平均を求め,各時刻で100点平均からの偏差をプロットしてアニメーション化した。それを見ると,高圧(低圧)偏差がかなり長く継続している地点もあり,バイアスが完全に除去しきれていない可能性がある。そこで,まず数秒程度の変動を見ることにし,3秒移動平均の10秒移動平均からの偏差を求め,これを各時刻でプロットしてアニメーション化した。その結果,波長数m程度と考えられる平面波的な気圧変動が移動しているような様子が明瞭に見られる時間帯があった。これは小規模大気擾乱の通過を捉えた可能性がある。
5.今後の方針
ここで解析した時間帯以外のデータも含めてさらに解析を進め,その結果を当日示す予定である。
Reference
今田衣美, 中島健介(2022):地面の運動に伴って励起される大気ラム波観測のための微気圧観測システムの開発, 日本地球惑星科学連合2022年大会
謝辞
本研究は JSPS 科研費 22K18872 の助成を受けて行った。
ラム波は地面に捕捉されて水平方向に音速(約300m/s)で伝播する大気波動であり,津波や火山噴火等で励起される。また,大気ラム波が津波を励起することもある。大気ラム波は津波(典型的には位相速度が約200m/s)より先に到達するため,微気圧測定網を構築してラム波を観測すれば津波の早期警戒に役立つ可能性がある。この可能性を念頭におき,今田と中島(2022)は安価で広範囲に多数設置可能な微気圧観測システムを開発した。測定間隔は 35ms,相対観測精度は0.5Paであり,ラム波だけでなく雷や大気乱流等による微気圧変動も捉える可能性がある。本研究では,上の研究で開発された微気圧計を改良しつつ多数作成し狭い範囲に面的に配置して同時観測を行い,センサの相互比較とデータ取得の実証実験を行うとともに,接地境界層大気擾乱の観測にも適用した。
2.作成した微気圧計測システム
静電容量式MEMS気圧センサ DPS310をマイクロコンピュータM5Stack ATOM LITEにI2C接続して制御しデータを Wi-Fi 接続の UDP 経由で送信する微気圧計を100台作成した。データの保存先はWi-Fi アクセスポイントに有線接続したDebian GNU/Linux 小型サーバーであり,これは同時に NTPサーバーとして微気圧計の時刻基準を提供する。当初は数十個の微気圧計からの小型サーバーへの通信が輻輳する困難が生じたが,一連の試行に基づきデータ通信パラメタと Wi-Fiアクセスポイントの設置方法を調整した結果,満足のいく接続を実現して観測とデータ収集を行うことができた。
3.野外観測
2023年1月12日夜,九州大学伊都キャンパス理系図書館近くの平らな広場で野外観測を行った。100個の微気圧計をほぼ平面上に10×10の格子点に約0.3m間隔で配置し,この領域から約5m離れた位置にWi-Fi アクセスポイントを置き,ほぼ全てのデータ(1分間当たり1714~5個)を受信しつつ約1時間観測を行うことができた。微気圧計間の相対時刻誤差を調べた結果,測定時間間隔の35ms以内と推定され,時間スケールがこれよりずっと長い現象を捉えることは十分可能と考えられる。
4.予備的な解析結果
現在,特に受信状況が良かった 9分間の測定データを解析しつつある。予備的な結果の要点は以下の通りである。
4.1 バイアス
基本場の同じ高さにおける気圧は数m程度のスケールで見ればほぼ等しいとみなせるはずである。そこで,解析期間に先立つ100秒間の測定データを用い,各微気圧計について時間平均とそれの全微気圧計平均との差をその微気圧計のもつ測定誤差としてバイアス補正した。しかし,後述のようにこれでは不十分であった可能性がある。
4.2 気圧センサのノイズ
各微気圧計でスペクトル解析を行い,100点のパワースペクトル密度を平均した。その結果,周期2~3秒程度以下の成分のパワーは各微気圧計間でばらつきが大きく,この成分はセンサのノイズであると考えられる。
4.3 大気擾乱
4.1のバイアス補正の上で1秒移動平均を求め,各時刻で100点平均からの偏差をプロットしてアニメーション化した。それを見ると,高圧(低圧)偏差がかなり長く継続している地点もあり,バイアスが完全に除去しきれていない可能性がある。そこで,まず数秒程度の変動を見ることにし,3秒移動平均の10秒移動平均からの偏差を求め,これを各時刻でプロットしてアニメーション化した。その結果,波長数m程度と考えられる平面波的な気圧変動が移動しているような様子が明瞭に見られる時間帯があった。これは小規模大気擾乱の通過を捉えた可能性がある。
5.今後の方針
ここで解析した時間帯以外のデータも含めてさらに解析を進め,その結果を当日示す予定である。
Reference
今田衣美, 中島健介(2022):地面の運動に伴って励起される大気ラム波観測のための微気圧観測システムの開発, 日本地球惑星科学連合2022年大会
謝辞
本研究は JSPS 科研費 22K18872 の助成を受けて行った。