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[MZZ42-P03] 高知県幡多郡三原村の土佐硯材「三原石」について
キーワード:三原石、土佐硯、四万十帯
高知県西部の幡多郡三原村では、当地の四万十帯から産出する黒色の粘板岩「三原石」を用いて、高知県指定の伝統的特産品「土佐硯」が生産されている。従来、三原石はその特徴として、形成年代が「白亜紀」とされ、緻密な組織を持つことで土佐硯の墨を磨る表面構造(鋒鋩)が密となること、鑑賞目的において重宝される「金星(特殊な銅粉)」が含まれることなどが挙げられてきた。ただし、これらの特徴は、書道家や硯職人によって説明され、必ずしも科学的根拠が明確にされていない、あるいは近年の研究を踏まえた知見の更新がされていなかった。そこで、本研究では、文献調査や三原石及び土佐硯の分析結果をもとに、三原石に関わる地質学的な特徴を整理したので紹介する。まず、文献調査の結果、三原石を含む地層は少なくとも新生界であり、幡多地域の地層から報告されている化石年代に基づくと始新統であると言える。三原石の粉末XRD分析の結果、主要鉱物は石英、斜長石、白雲母、緑泥石であり、金属鉱物については、主に黄鉄鉱が含まれていることが分かった。したがって「金星」の起源は銅ではなく、黄鉄鉱ということができる。また、三原石の研磨片の観察・分析から判明した構成鉱物の主な粒径は細粒シルトであり、土佐硯を精密切断・樹脂固定した研磨片の観察で、硯表面には幅と高さが数ミクロン程度の凹凸構造が認められた。三原石の緻密とされる組織はミクロスケールであり、それによって土佐硯の鋒鋩が磨墨に適した特徴を有することにつながったものと考えることができる。特に、硯石や硯表面の鉱物や微細構造の特徴は、日本や中国における他の著名な産地の硯と共通点が認められ、三原石は、高品質な硯を製作するための地質学的特徴を有することが分かった。本発表では、以上の成果の他、硯の普及に向けたワークショップ(My土佐硯づくり教室)などのアウトリーチの取組を紹介する。