15:30 〜 17:00
[MZZ43-P18] 南紀熊野ジオパークで語り継がれる地域の民話を題材とした絵本教材の制作
キーワード:民話、教材、絵本、フロッタージュ、南紀熊野ジオパーク
南紀熊野ジオパーク推進協議会は毎年、子供向けの学習用教材の開発を行っている。その一つが、ジオパークエリア内の小学校6年生向けの副読本である。この副読本は、南紀熊野ジオパークのことをより深く理解してもらうために2016年から作成を始めた。しかし、この副読本の内容は地質・地形を中心とした専門的なものが多いため小学生には難しく、興味・関心を抱く子供たちが少なかった。毎年、学校現場の意見をもとに改訂を行っていたが、学校側もどのように扱ってよいかわからず、この副読本が教育活動で活用される機会はほとんどなかった。そこで、まずは楽しみながらジオパークに興味・関心をもってもらうことを目的とした教材開発を行うことに変更し、2020年にすごろくゲーム型教材を作成した。この教材はコロナウイルス感染症の影響で学校への訪問や活用方法について十分な周知ができなかった。しかし、アンケートの結果、回答の半数以上が子供たちへ配布しただけであったが、この配布がきっかけで子供たちの約6割がジオパークに興味を持ったことが分かった。また、アンケートからジオパークの教材を望む教員が多いことも分かったため、子供たちの興味・関心を高めつつジオパークについて学ぶことができる教材が必要であると考えて、2021年から絵本の作成を始めた。絵本作成の目的は、子供たちの興味・関心や理解を深めるだけでなく、ジオパークや郷土に対する誇り、地域アイデンティティの形成とともに地域文化の伝承である。そのためにジオパークエリア内の無形文化に着目してジオパークの見どころ(ジオサイト)が舞台となる民話を題材とした。子供たちが絵本をきっかけに現地へ訪れてもらうために、地質・地形や地域文化への学びを深めるための解説も加えている。南紀熊野ジオパークのエリアは東西南北の4つに分けることができるため、2021年に南エリアの民話「橋杭岩と立岩伝説」、「鯛島と河内島」、2022年に東エリアの民話「クジラとモグラ」、「おいの伝説」を題材に作成した。今後、他のエリアについても同様に作成する予定である。子供たちの興味・関心を高めるために、この絵本ではフロッタージュという技法を用いて岩や植物の質感を表現しているのがひとつの特徴である。この技法は、民話の舞台(ジオサイト)に実在している石や岩、植物などの上に紙を置いて、その模様を鉛筆で擦りだし、それを背景などに用いる手法で、ジオパークの大地や自然を感じてもらう工夫である。また、他には民話を地域の方々の協力を得てその地域で使われている言葉で表現したり、分かりやすい図や写真を入れて解説するなど、子供たちに親しみやすく、理解しやすいような構成にしている。絵本は当初、小学校での活用を考えていたが、より多くの人に手に取ってもらえるように、ジオパークエリア内の幼稚園と保育園、認定こども園、小学校(特別支援学校の小学部を含む)、公共図書館に配布した。地元の高校では授業の一環でこの絵本を用いて民話やジオパークについて学び、その後、高校生が子供たちに向けて公共図書館で絵本の読み聞かせを行う教育活動を行った。また、小学校では司書教諭が図書室で広報をしたり、南紀熊野ジオパークセンターで原画展を開催して来館者に広くPRした。さらに、民話の舞台となった現地でフロッタージュの体験をしたり、フロッタージュを紹介する動画を作成し、SNSによる広報活動を行った。これらの活動は、単にジオパークに興味・関心を持ち、理解を深めるだけでなく、自然の素晴らしさや地域の文化・歴史を知るきっかけとなっている。今後も持続発展的に絵本を切り口にジオパークを活用した教育普及活動を図っていきたいと考えている。