日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

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[M-ZZ45] プラネタリーディフェンス、我々は何をすべきか

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (21) (オンラインポスター)

コンビーナ:吉川 真(宇宙航空研究開発機構)、Patrick Michel(Universite Cote D Azur Observatoire De La Cote D Azur CNRS Laboratoire Lagrange)、奥村 真一郎(NPO法人日本スペースガード協会)、岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MZZ45-P04] Hera搭載熱赤外カメラTIRIによる地球接近小惑星の観測計画

*岡田 達明1,2田中 智1坂谷 尚哉1嶌生 有理1、石崎 拓也1吉川 真1、竹内 央1、山本 幸生1荒井 武彦3、千秋 博紀4出村 裕英5関口 朋彦6神山 徹7金丸 仁明2 (1.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所、2.東京大学、3.前橋工科大学、4.千葉工業大学、5.会津大学、6.北海道教育大学、7.産業技術総合研究所)

キーワード:プラネタリ―ディフェンス、ヘラ、熱赤外撮像

太陽系の惑星は46億年前に原始太陽系の塵や固体凝縮物が集まって形成されたが、現在も惑星に取り込まれていない多数の小天体が残存しており、衝突・合体・破壊を繰り返している。地球に衝突する可能性のある天体も存在し、その大きさや衝突地点によっては人類社会に破滅的な危機をもたらす。最近でも、1908年のツングースカ大爆発は数10m級の小惑星が大気中を通過した際のバーストにより、シベリアのタイガの森林が数10kmの範囲で薙ぎ倒されており、もし東京近傍で生じると大都市圏の全域が甚大な被害が生じると推定される。2013年の10数m級のチェリャビンスク隕石が市街地から逸れた場所に落下した際も、エアバーストの影響で1500名近い傷害者、多数の建築物の被害が発生した。今後1000年以内に生じ得る被害は主に100m以下の小惑星によると考えられるが、その規模であれば探査機を小惑星に衝突させることによる軌道修正によって、衝突時期を大幅に遅らせることができる可能性がある。その最初の実証試験計画AIDAは、NASAのDART計画とESAのHera計画の組み合わせで実施される。日本のJAXAは観測機器の一つである熱赤外カメラTIRIを提供し、観測を実施することによってHeraに参画する。
DARTは2021年11月24日に打ち上げ、2022年9月26日に小惑星Didymosの衛星Dimorphosに衝突した。衝突直前に撮像した画像は地上に伝送され、小惑星の表層状態について知見を得ることができた。また、地上観測によって衝突後のイジェクタ放出の状況などが観測された。衝突による速度変化によって、Didymosのまわりを周回する公転速度が11時間55分から11時間23分に短縮されたことが判明している。
DART衝突による軌道修正の効果を調べるには、Dimorphosを構成する物質の組成や密度、空隙率、全体の平均密度、形成されたクレータのサイズや発生したイジェクタの堆積状態、DidymosやDimorphosの自転や章動、公転軌道などを正確に調べる必要がある。それらは事後に到着するHeraによって実施される。Heraに搭載する熱赤外カメラTIRIは広帯域バンドと、物質を調べる6波長の狭帯域バンドを有し、主に両小惑星の熱物性と物質の組成を調べる役割を担う。Heraが小惑星到着した直後には、距離20~30kmから全球の観測を行い、両小惑星の熱慣性マップ、物質組成マップを構築する。Heraは高度を下げ、より高解像度での観測を実施し、DART衝突クレータの形状や内部・外部の物質の違いなどを調査する。他の観測機器との情報を総合することによって、プラネタリ・ディフェンスのための探査機衝突による小惑星軌道修正の効果を実証に寄与するほか、史上初の二重小惑星の科学探査を通じて太陽系の形成・進化過程の解明に資することが期待される。発表ではTIRIによる観測計画と期待される成果について述べる。