日本地球惑星科学連合2023年大会

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現地ポスター発表

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[O-06] 高校生ポスター発表

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 現地ポスター会場 (幕張メッセ展示ホール8)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(気象庁)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 13:45-15:15)

13:45 〜 15:15

[O06-P13] なぜ諏訪清陵高校の床に段差が生じるのか

*河西 美優希1 (1. 長野県諏訪清陵高等学校)


私の在籍する諏訪清陵高校の廊下には,10 mm ほどの段差が生じている.言われなければ気が付かないほどわずかな段差だが,長年本校に勤務されていた先生によれば,この段差は昔は無かったうえ,徐々に高さの差が開いてきていたそうだ.それを聞いて興味を持ち,この段差の原因について研究を始めた.まずはその高さの差が本当に開いているのかを確かめるため,一昨年五月頃から,週一回の高さの測定を行っていた.値は大きく変動していたが,定規と長い棒を用いた簡易的な測り方であるため正確さを欠くと考えられた.誤差を小さくするため,万力と板状のレーザーポインターを組み合わせた新たな計測器具を作成した.従来の計測方法では最大 7mm の誤差があったが、この方法では最大で 約 1mm となった.この器具で計測を続けているが,今のところは大きな値の変動は見られないため,旧来の値の変動は計測方法の問題だったということが分かった.この廊下の床の材質はビニールであり,温度や湿度によって膨張・収縮する可能性があるため,今後は温度や湿度とともに計測を継続していきたい.
 また他に,昇降口前のタイル張りの地面にわずかな膨らみを伴った亀裂がときどき生じる.修理してもその度に別の場所に生じるため,昇降口前のタイル張りの地面には修理の跡が多くある.この亀裂と廊下の段差との関係も,本研究の問いの一つである.
 私はこれらの段差や亀裂の原因について「付近の断層地形が関係している」「地下の水の流れが影響している」という二つの仮説をたてた.
 一つ目の仮説を検証するため,地理院地図などを参照して付近の断層を調査した.諏訪清陵高校の付近には諏訪断層群が位置しており,裏山にも断層が走っているということが分かった.また,地震調査研究推進本部地震調査委員会による『糸魚川-静岡構造線断層帯の長期評価(第二版)』は,諏訪断層群の一般走向について N40°W と示していたが,クリノメーターで廊下の段差と昇降口前のタイルの亀裂の走向を測ったところ,ともに NW であり,諏訪断層群とは異なった.さらに,校舎の段差や亀裂の続きを付近の市街地で探した.舗装道路にいくつか亀裂が見られたが,それはアスファルトの工事の特性上,一般的に生じるものだった.校舎や市街地の段差や亀裂は,表面の人工物に沿った向きになるために実際と異なる走向に見えていたり,人工物の影響が原因となっていたりする可能性が高い.そこで人工物の影響を受けない場所で段差や亀裂を観察しようと裏山を探したが,校舎のものと同じ走向の段差や亀裂は見つからなかった.これらのことから,断層地形が関係しているという一つ目の仮説は誤っていたと考察した.しかし,風雨などで表土が削られて観察できなくなっていただけという可能性が捨てきれない.
 二つ目の仮説を検証するため,校舎が改築された際の 1983 年の地盤調査委託業務報告書から,土質柱状図を整理した.敷地の地下は主に砂礫や粘土交り礫の地すべり堆積物で構成されているということが分かった。これらの土質は水を通しやすいため,地下の浅い部分の水の流れが影響しているという二つ目の仮説は誤っていたと考察した.
 これらの追究から,校舎の段差や亀裂の原因は地学的なものよりもむしろ工学的なものである可能性がでてきた.そこで新たな仮説をたてた.昇降口前の亀裂については,コンクリートは乾燥や経年や温度変化によって収縮するため,タイルとの収縮率の違いによりひずみが生じて亀裂が生じるのではないかと考えた.廊下の段差については,この校舎の建築工事には複数の建設会社が関わっており,段差のある場所が接合部にあたることから,校舎建設時にミスがあったのではないかと考えた.
 今後は,段差の計測を続けて長期的なデータを収集するほか,新たな仮説についても追究を進めたい.