日本地球惑星科学連合2023年大会

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現地ポスター発表

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[O-06] 高校生ポスター発表

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 現地ポスター会場 (幕張メッセ展示ホール8)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(気象庁)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 13:45-15:15)

13:45 〜 15:15

[O06-P33] 地下水を用いた地震予知

*田中 瑞姫1、*浅田 那優1、*池田 千紘1 (1. 福井県立藤島高等学校)

キーワード:塩化物イオン濃度、地震予知、第三種空白域


日本は地震大国であり、阪神淡路大震災や東日本大震災では多くの死者、建造物の損壊が出ており、被害の最小化が課題となっている。

そこで私達は地震がいつ、どこで起こるか、またその規模を予知するため、地下水の水質に着目した。研究の目的は2つある。1つ目は、地下水の水質と地震の発生にどのくらいの相関があるかを明らかにすること。2つ目は、地震予知において地下水の水質分析がどのくらい効果的か、またこの懸念点を探ることである。私達は、活断層が存在する地域で湧出する地下水に含まれる塩化物イオンの濃度を指標にし、応力(物体に外力が加わる際にその物体内部に生じる抵抗力)の変化を捉えることで、地震を予知することができると仮説を立てた。実験・検証について、2020年9月4日に起きた地震の震源地である河合地区を採水場所に決定した。週に一回の頻度で採水を行い、その際、日時と水温を記録した。採取した水は、福井県教育総合研究所にあるイオンクロマトグラフ分析装置を用いて塩化物イオン濃度を測定し、実際に福井県嶺北で有感だった地震との関連性を分析した。

 実験の結果からは、地下水の塩化物イオン濃度が、地震が発生するまで上昇し続け、発生後に下降する傾向があることが確認できた。この結果に対し私達は2つの考察を行った。1つ目に、水温の変化についてである。福井県で有感だった地震と相関のある塩化物イオンの濃度変化と地下水の水温の変化との相関係数を調べてみると、約-0.5の弱い負の相関となるため、地震と地下水の水温には相関があると判断した。しかし、地下水の上には九頭竜川の伏流水が流れており、この伏流水は外気の影響を受けやすいため伏流水の水温は夏に高く冬に低い傾向にある。地下水の水温も夏に高く、冬になるにつれて低くなっており、これは伏流水の水温変化と類似しているため、地下水の水温は採水する際に伏流水の影響を受けていると考えられる。よって、地下水の水温と地震の発生は全く関係がないとは言い切ることができない。2つ目に、イオン濃度が変化するメカニズムについてである。まず、本研究でサンプリングした河合地区の地下水は、付近に位置する温泉や地震活動の影響で、断層破砕帯から流出する地下水量に応力に伴う変化が見られる。伏流水系の地下水は、含有物質の濃度等は基本的に一定であるが、本研究の地下水では、応力の変化により、海洋底を起源とする断層破砕帯から染み出た塩化物イオンを含む深層水の混合比が変化した。本研究を通じて、地震発生前に、活断層に対する応力が高まることで、地下水に含まれる深層水の割合が高まり、地震発生後には応力が開放された事により、絞り出される深層水の量が減少する傾向があることがわかった。つまり、地震発生前には応力の高まりとともに塩化物イオン濃度は徐々に高くなり、地震発生直後には塩化物イオン濃度はピークを迎え、その後低くなる傾向がある。

 最後に、本研究の3つの課題を提示する。1つは実験方法についてである。本研究は我が校において初めての試みであり、実験方法も模索が続いていた。まずは採水日の間隔について。一週間ごとの採水を行ったが、その間に地震が発生した際には、塩化物イオン濃度のピークを迎えるタイミングの分析などが十分に行えなかった。次に、地下水に影響を与えうる要素について。今回採取した地下水は、深層水と伏流水が混合しているため、含有される塩化物イオン濃度は、潮汐や天候に影響を受ける可能性がある。これらが塩化物イオン濃度に影響を与えているのか、またそれらを考慮した観測方法を模索する必要がある。そして、採水地点の数について。この予知のための採水には、活断層がある地域の地下水で、かつ塩化物イオン濃度の変化が見られる地下水である必要がある。この条件をみたす採水地点は、本研究期間中には県内に見つけることができず、今後研究を展開する際にも、どのように採水地点を増やし、サンプル数を増やすかは、大きな課題になるだろう。次に実験の考察については、本研究期間には、採水日の間隔が不均一だったこともあり、塩化物イオン濃度の変化と、地震の発生は完全には一致しなかった。この原因について、現時点では塩化物イオン濃度は、応力の変化以外の要素によっても変化するためだと私達は予想しているが、その解明にはより統計的な調査が必要だ。また、塩化物イオン濃度が変化するタイミングについて、本研究では、地震発生直後、つまり応力が開放された直後に塩化物イオン濃度がピークを迎えるという考察を行った。これは、深層水と表層の地下水が混合するのに時間を要するためだと考察したが、これらの原因は、今回の研究では明らかにならなかったため、今後も追求していきたい。