日本地球惑星科学連合2023年大会

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現地ポスター発表

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[O-06] 高校生ポスター発表

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 現地ポスター会場 (幕張メッセ展示ホール8)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(気象庁)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 13:45-15:15)

13:45 〜 15:15

[O06-P81] 別府温泉の地下地質
-岩石から溶出する鉄イオン濃度から考察する酸性泉の生成過程からの推定-

*櫻井 陽葵1 (1. 市川学園市川高等学校)

キーワード:別府温泉、火山性温泉、鉄イオン


温泉には、互いに近接しているにも関わらず、湧出する泉質が異なるものが存在する。火山性温泉における泉質形成は岩石と地下水との反応によって行われ、特に酸性泉中の主要溶存イオンの溶出挙動は山下(1977)によって、初期には鉄イオンやアルミニウムイオンが多く溶出し、反応が進むにつれてカルシウムイオンとマグネシウムイオンが多くなり、その後ナトリウムイオンとカリウムイオンが、最後にはアルカリ元素が大きな割合を占めるということが明らかにされている。大分県中部に位置する別府温泉では、梁(2021)などの泉質を分析した化学的手法による研究によって、泉質ごとの流動経路に関連性があることが明らかになっており、別府地域の地下水流動経路は鉛直分布とともに明らかにされている。そもそも火山性温泉の泉質は地下熱水系と水-岩石相互作用などに影響されるが、日本国内の温泉地では地権の都合からボーリング資料が公開されていない場合がほとんどで、別府温泉について、地質的側面から泉質形成を論じたものは筆者の知る限りない。そこで本研究では別府温泉の地下地質を明らかにするために、別府八湯の一つである明礬温泉に位置する酸性泉を実験によって再現することを試みた。
 実験は火山岩から鉄イオンが溶出する条件を調べた。溶質は0.75μm以下に粉砕した玄武岩とし、本研究で対象とした温泉の分析表に基づいて、溶媒をpH2.6に調製した硫酸溶液と純水にした。溶液と岩石との接触時間を30分、60分、90分、120分、150分、180分とした。溶液の温度は、純水のとき 25℃と100℃で、硫酸溶液では25℃、50℃、75℃で実験を行った。鉄イオンの分析には 1,10-フェナントロリン吸光光度法を用いた。吸光度の測定は市川学園所有の島津製作所製分光光度計(UVmini-1240)を用いた。
 結果、純水条件下では温度や時間を変えても鉄イオンの溶出はなかったが,硫酸酸性条件下での溶出量は、温度と時間に比例して増加した。したがって、温泉水中への岩石からの鉄イオンの溶出は、中性条件では行われないことがわかる。また、溶媒が硫酸酸性のとき、1気圧では水温が高いほうがより多く鉄イオンを溶出させることがわかった。本実験で目標とした別府明礬温泉の鉄イオン濃度5.8mg/Lが地下の玄武岩から溶出すると仮定したとき、温度が87.9℃を超えると一瞬でも岩石と地下水が触れただけで目標値に達してしまうと考えられる。対象とした源泉の帯水層付近の地温は200℃以上と推測され、その温度の熱水が玄武岩中を通ってきたと仮定したとき、この温泉の鉄イオン濃度は5.8 mg/Lよりも高くなってしまう。したがって1気圧下での酸性泉の生成過程において、滞留時間には依存しないことが考えられ、地下水(溶媒)の液性、地質(溶質)、圧力条件が影響していると考えられる。本研究の手法を用いてさらにデータを蓄積していくことで、まだ明らかにされていない地下地質を実験によって明らかにしたい。