日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS03] 太陽系小天体:太陽系の形成と進化における最新成果と今後の展望

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、吉田 二美(産業医科大学)、荒川 創太(海洋研究開発機構)、深井 稜汰(宇宙航空研究開発機構)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[PPS03-P16] 小惑星の起伏表面に適用可能なクレータースケール則とクレーターの崩壊に関する実験的研究

*横田 優作1荒川 政彦1保井 みなみ1山本 裕也1長谷川 直2大川 初音1 (1.神戸大学大学院理学研究科、2.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:クレーター、小惑星、リュウグウ

衝突クレーターは、小惑星や人工衛星などの固体天体において主要な地形の1つである。クレーターの形態は天体表面の影響を受ける。例えば、ラブルパイル小惑星の表面はボルダーに覆われているため、アーマリング効果によって小クレーターが欠如する。また、表層粒子の凝集力はクレーター形成効率に影響を及ぼす。さらに、近年のはやぶさ2やOSIRIS-RExによる探査で、小惑星リュウグウやベンヌは赤道域に巨大なバルジ地形を持つことがわかっている。リュウグウのバルジには大クレーターが集中しており、他の領域とは異なる表面特性や表面年代を示している可能性がある。しかし、このような起伏表面でのクレーター形成過程はまだ分かっていない。そこで本研究では、小惑星表面の起伏地形を模擬した粉粒体標的に対してクレーター形成実験を行い、起伏地形上のクレーターに適用可能なスケール則を構築する。これにより、天体表層の力学的特性や表面年代の推定精度の向上を目指す。
小惑星の起伏地形を模擬するために、山脈状の粉粒体標的を用意した。この標的は直径100 μm、安息角約31°の石英砂で構成されている。標的の傾斜角θは20°と30°に設定した。また、平面(θ = 0°)も用意した。また、衝突点から山頂までの水平距離dを1 mmから22 mmの範囲で変化させた。神戸大学の縦型一段式軽ガス銃を用いて衝突実験を行った。標的は真空チャンバーにセットし、1000 Pa以下に排気した。弾丸には直径3 mmのアルミナ球を使用し、衝突速度viθ = 30°で63〜202 m/s、θ = 20°で3.8〜89 m/s、θ = 0°で76〜187 m/sの範囲であった。クレーターの形状を解析するために、Metashapeというソフトを用いて3次元形状モデルを作成した。この形状モデルを用いて、稜線方向の楕円の長さDma、斜面方向の楕円の長さDmi、深さ、クレーター体積を測定した。また、高速度カメラを用いて衝突現象の観測を行った。
クレーター形状は楕円形であり、アスペクト比(稜線方向の長さDmaと斜面方向の長さDmiの比)はdに依存していた。また、クレーター体積はd/Dmaに依存することが分かった。d/Dma > 0.3では、遷移クレーターが山頂を越えず、斜面方向の崩壊によってクレーターが埋まるため、体積は著しく小さくなった。d/Dma < 0.3 では、遷移クレーターが山頂を越えて成長し、稜線方向のクレーター壁がクレーターの底に向かって崩壊した。しかし、斜面方向のクレーター壁はクレーターの外側に崩壊した。この2つのメカニズムにより、クレーターの埋没が制限された。さらに、アスペクト比(Dma/Dmi)と深さ直径比(h/Dma)もd/Dmaによって制御されていた。なお、リュウグウのウラシマクレーターは深さ直径比が0.07であり、傾斜角30°のバルジを模擬した実験では、h/Dma = 0.07のときd/Dmaはおよそ0.2であった。このd/Dmaは0.3以下であることから、h/Dma = 0.07の浅いクレーターは主に稜線方向のクレーター壁の崩壊に起因するものと考えられる。さらに、θ = 30°におけるDmad/Dmaに依存していた。そこで、d/Dmaで規格化することによって得られた山脈状標的のスケール則を平面に対するスケール則と比較すると、バルジ上に形成されるクレーターは、常に平面に形成されるクレーターより大きいことが分かった。したがって、この結果は、リュウグウのバルジの表面年代を再考する必要があることを示唆している。