日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS04] Advancing the science of Venus in the golden age of exploration

2023年5月25日(木) 09:00 〜 10:30 オンラインポスターZoom会場 (2) (オンラインポスター)

コンビーナ:佐藤 毅彦(宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部)、はしもと じょーじ(岡山大学学術研究院自然科学学域)、Moa Persson(Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo, Kashiwa, Japan)、Kevin McGouldrick(University of Colorado Boulder)



現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

09:00 〜 10:30

[PPS04-P02] 金星の観測システムシミュレーション実験によるコールドカラー再現性

*藤澤 由貴子1杉本 憲彦1、Ao Chi2細野 朝子3安藤 紘基4高木 征弘4、Lopez Itziar Garate 5、Lebonnois Sebastien6 (1.慶應義塾大学、2.カリフォルニア工科大学ジェット推進研究所、3.東京大学、4.京都産業大学、5.バスク大学、6.ソルボンヌ大学)

キーワード:金星大気、データ同化、観測システムシミュレーション実験


観測システムシミュレーション実験(OSSE)は、データ同化手法を用いて、仮想の観測計画を試験する手法であり、対象とする現象の再現性によって観測計画を評価することができる。地球では、衛星観測をはじめとする新たな観測が導入された際の気象予測能力の客観的評価に積極的に利用されている[1]。惑星において最も観測や数値モデル研究が盛んな火星では、OSSEのフレームワークが提唱された段階である[2]。金星におけるOSSEは、これまで我々のグループが世界に先駆けて取り組んでいる[3-6]。

複数の小型衛星を用いた衛星間電波掩蔽観測 (RO) 計画は、金星の高度約48〜70kmの全球的に覆う厚い雲層にさえぎられることなく、高度約40~90kmの鉛直温度分布を全球的に頻回に観測できることが期待される。金星探査機「あかつき」や「Venus Express」の観測では、中間赤外カメラ (LIR) による雲頂高度付近の温度の水平分布等が観測されてきている。本発表では、高度65km付近における、極域が周囲比べて高温になり、その周辺の緯度60-80°が低温になる「コールドカラー」と呼ばれる金星特有の現象に着目し、将来打ち上げられる衛星によるRO観測とLIR観測を想定して、OSSEを実施した。

金星同化システムには、Local Ensemble Transform Kalman Filter (LETKF)に基づく「ALEDAS-V」 (AFES LETKF Data Assimilation System for Venus) [7] を用いた。アンサンブル予報には、地球シミュレータに最適化されたAFES (Atmospheric GCM For the Earth Simulator) をベースとした金星大気大循環モデル「AFES-Venus」[8] を用いた。疑似観測データには、放射強制により理想的なコールドカラーが表現された「IPSL Venus GCM」 (現在の呼称はVenus Planetary Climate Model (PCM)) [5] の温度出力を用いた。RO実験では、3基の衛星による観測を想定して、軌道計算を行って得た観測点に対応する高度40-90kmの温度を疑似観測データに用いている。観測点は全球に点在し、北緯75°以北の領域には1日に2回程度存在する。LIR実験では、高度70kmにおける北半球の昼面の全域に1日に2回の温度を疑似観測データに用いている。

図a-cは、実験開始から50日目における高度67kmの30-90°Nの温度である。同化なし実験(FR)では、高度67kmにおけるコールドカラーは現れていない。一方で、同化した2つの実験では、コールドカラーが再現された。図d-fは、実験60-90日の時間平均をした残差子午面循環(ベクトル)とその鉛直成分(カラー)の緯度高度断面である。コールドカラーが再現されたROとLIR実験では、FR実験に比べて極域で下降流が強化され低い高度まで達している。Ando等 [9] による大気大循環モデルによる研究では、残差平均子午線循環の極域における下降流により、大気が断熱加熱によって暖められ、コールドカラーが形成されたことを示したが、本実験でもAndo等と整合的な結果が得られた。

[1] Masutani, M., J. S. Woollen, S. J. Lord, G. D. Emmitt, T. J. Kleespies, S. A. Wood, S. Greco, H. Sun, J. Terry, V. Kapoor, R. Treadon, and K. A. Campana (2010), J. Geophys. Res., 115.
[2] Reale, O., T. Fauchez, S. Teinturier, S. Guzewich, S. Greybush, and J. Wilson (2021), Bulletin of the AAS, 53(4).
[3] Sugimoto, N., M. Abe, Y. Kikuchi, A. Hosono, H. Ando, M. Takagi, I. Garate-Lopez, S. Lebonnois, and C. Ao (2019b), Journal of Japan Society of Civil Engineers A2: Applied Mechanics, 75(2), 477–486.
[4] Sugimoto, N., Y. Fujisawa, M. Shirasaka, A. Hosono, M. Abe, H. Ando, M. Takagi, M. Yamamoto, (2021), Atmosphere, Vol.12, No.1, 14, 16pp.
[5] Sugimoto, N., Y. Fujisawa, M. Shirasaka, M. Abe, S.-Y. Murakami, T. Kouyama, H. Ando, M. Takagi and M. Yamamoto (2022), Atmosphere, 13, 182.
[6] Sugimoto, N., Fujisawa Y., Komori, N., Ando, H., Kouyama T. and Takagi, M (2022), Geosci. Lett., Vol.9, 44.
[7] Sugimoto, N., A. Yamazaki, T. Kouyama, H. Kashimura, T. Enomoto, and M. Takagi (2017), Scientific Reports, 7(1), 9321.
[8] Sugimoto, N., M. Takagi, and Y. Matsuda (2014a), J. Geophys. Res. Planets, 119, 1950–1968.
[9] Ando, H., N. Sugimoto, M. Takagi, H. Kashimura, T. Imamura, and Y. Matsuda (2016), Nat. Commun., 7, 10398.