日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS05] 火星と火星衛星

2023年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、中村 智樹(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[PPS05-P08] 岩石鉱物への電子照射実験によるフォボス表層における過去火星起源生命前駆物質の生存過程の推定

*武田 朋樹1,2木村 智樹1宮本 英昭2中村 智樹4寺田 直樹3 (1.東京理科大学、2.東京大学、3.東北大学大学院理学研究科、4.東北大学大学院理学研究科地学専攻)


キーワード:太陽風、アミノ酸、電子、フォボス、表層、模擬物質

火星表面では、初期の火星に液体の水が存在していたことが推測される地形的証拠が多数発見されており(Ehlmann et al., 2011)、初期の火星には生命前駆物質が存在していた可能性がある。また近年、初期火星への巨大天体衝突によって火星衛星フォボスが形成されたことがシミュレーションから推測されており(Rosenblatt, P.et al., 2016)、フォボス表層には初期火星の生命前駆物質が保存されている可能性がある。大気を保有しないフォボスは、太陽高エネルギー粒子(Solar Energetic Particles, SEP)等による風化プロセスを受けるため(Pieters et al.,2016)、生命前駆物質の表層での生存期間が短くなることが予想される。これまで様々な環境条件にて生命前駆物質へのSEP照射実験が行われ、それらの宇宙風化過程が議論されてきた。特に生命前駆物質であるアミノ酸は、SEPを模したkeV帯の電子照射によって分解・結合し、アミン類やシアネート、ジペプチドの生成が確認されている(Maté et al., 2014;Maté et al., 2015;Corr and Silveira., 2022.,etc)。しかし、フォボス表層環境におけるアミノ酸の宇宙風化過程は未解明である。そこで本研究では、タンパク質合成アミノ酸と、フォボス模擬物質(UTPS-TB,Miyamoto et al., 2021)を混合した試料への電子照射に基づき、フォボス表層におけるSEPによるアミノ酸宇宙風化過程の解明に取り組んだ。室温(300K)にて、5keV電子を4e+16particles/cm2のfluenceで、UTPS-TB50wt%、アミノ酸(アラニンもしくはシステイン)50wt%を混合させた試料に照射した。その結果、赤外反射率の測定からアラニンおよびシステインの分解が確認された。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるアミノ酸(グリシン、アラニン、システイン)の定量分析により、フォボス−アラニン試料は、アラニンのカラム密度が2.42-2.58e+20 particles/cm2から2.15-2.37e+20 particles/cm2に減少したことが確認された。また、フォボス−システイン試料は、カラム密度が2.04-2.10e+20 paticles/cm2から5.44-5.70e+19particles/cm2に減少したことが確認された。どちらの試料も新たなアミノ酸の生成は確認されなかった。今回の結果から、フォボス表層において、アラニン、システインはそれぞれ0.158-1.28e+4[year]、4.68-4.81e+2[year]程度で枯渇することが推定された。システインの分解率がアラニンより高いことから、炭素-硫黄結合の電子照射による分解速度が他の官能基に比べて大きいことが原因であると考えられる。本研究によって、照射による主な生成物は分子量の大きなアミノ酸から分解した相対的に低分子の炭化水素化合物であると推測された。今後はフォボス-アミノ酸の比率、照射fluenceを変えることで、フォボス表層におけるアミノ酸分解過程のより現実的な推定を行い、生命前駆物質の分解・生成過程の解明に取り組んでいく。