日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS05] 火星と火星衛星

2023年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、中村 智樹(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[PPS05-P12] FSI法を用いた電波掩蔽観測による火星極夜域の鉛直熱構造に関する研究

*髙橋 菜乃花1野口 克行1今村 剛2 (1.奈良女子大学大学院、2.東京大学)

キーワード:電波掩蔽観測、火星、極夜、二酸化炭素、大気主成分凝結

⽕星は極夜域で⼤気主成分の⼆酸化炭素(CO2)が過飽和・凝結するほどの寒冷な気候を持つ。⼤気主成分が凝結する現象は地球では観測されておらず、⽕星特有の現象である。極夜域ではCO2が降雪して地表⾯に堆積したり、直接地表⾯に凝結したりすることで、極冠を形成する。極夜が明けると、極冠から再びCO2が昇華する。このように、極夜域で⼤気が凝結・昇華を繰り返すことで⼤気量の20-30%が変動する。
大気中のCO2過飽和を研究するためには、高度・気温分解能の高い観測が必要である。そのような観測手法の一つとして、電波掩蔽観測が挙げられる。電波掩蔽観測とは、観測対象となる惑星⼤気を周回する探査機から地球に向けて電波を送信し、その電波が惑星⼤気を通過する際に受ける周波数変動を利⽤して惑星⼤気の気温と気圧の⾼度分布を得ることができる観測⼿法である。従来の⽕星探査では、幾何光学法と呼ばれる⼿法によって周波数解析を⾏い気温の⾼度分布を導出していたが、この⼿法ではマルチパスやフレネルゾーンにより⾼度分解能が500mから1km程度に制限される問題点があった。そこで、本研究では新たな周波数解析の⼿法として電波ホログラフィ法の⼀種であるFull Spectrum Inversion(FSI)法に着⽬する。従来の幾何光学法ではある時刻に対して1つの周波数を対応させていた(周波数は時刻の関数となっていた)が、FSI法ではある周波数に対して1つの時刻を対応させる(時刻が周波数の関数となるようにする)ため、マルチパスが発⽣している場合でも周波数と時刻の関係を正しく考慮することができる。また、幾何光学法では得られた受信信号を短いデータ区分に分けてフーリエ変換を行うのに対し、FSI法では全受信信号に対し一度にフーリエ変換を行い周波数変化を求めるため、⾼い(160m程度)⾼度分解能が得られる。
本研究では、1998年から2007年まで運⽤された⽶国の⽕星探査機Mars Global Surveyor (MGS)による電波掩蔽観測(RS)データを利⽤する。MGS-RSの周波数データは、NASAのWebサイトにて公開されている。この公開データを用いて、従来の幾何光学法に加えてFSI法を適⽤して気温と気圧の⾼度分布を導出した。解析対象としたのは、火星年24年に得られた南半球極夜内の気温・気圧の高度分布(計18本)である。両⼿法で導出した気温の高度分布を⽐較したところ、幾何光学法では捉えられていなかった鉛直微細構造がFSI法によって捉えられていることがわかった。特に、従来の幾何光学法と比較してFSI法の結果では気温の擾乱の振幅が大きくなる傾向があり、気温減率が乾燥大気の断熱減率を上回る事例数が8割程度増加した。このことは、幾何光学法では捉えられていなかった中⽴層をFSI法によって検出できたと言える。このような微細な中立層を引き起こす過程としては、CO2凝結に伴う対流や大気重力波による砕波などが考えられる。