日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:15 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:金丸 仁明(東京大学)、荒川 創太(海洋研究開発機構)、座長:金丸 仁明(東京大学)、辰馬 未沙子(東京工業大学)

09:00 〜 09:15

[PPS07-01] 粉体標的への高速度衝突: 衝突点近傍の温度分布

*黒澤 耕介1佐藤 雅彦2大野 遼1富岡 尚敬3新原 隆史4長谷川 直5 (1.千葉工業大学 惑星探査研究センター、2.東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻、3.海洋研究開発機構 高知コア研究所(X-star)、4.岡山理科大学 理学部基礎理学科、5.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)

キーワード:高速度衝突、粉体、衝撃回収

天体衝突は惑星形成の基礎過程の一つである. 衝撃波の発生によって太陽周りの軌道運動エネルギーを不可逆的に熱エネルギーに変換する [e.g., Ahrens&O’Keefe72, Moon 4, 214-249]. 天体衝突時に発生する高温•高圧で形成された衝撃変成組織は各種隕石, 月試料から発見され, 過去の太陽系の力学的励起状態を復元するための探針として用いられてきた[e.g., Marchi+13, Nature Geo. 6, 303-307]. 復元作業には衝撃波伝播時の運動量•エネルギー分配過程を精確に理解している必要がある. 従来は多くの場合, 天体が均質媒体であることを仮定し, 変成組織を形成するのに必要な衝突条件が見積もられてきた. ところが, 天然物質は鉱物粒子の混合体であり, 密度やサイズの不均質, 粒界や空隙が存在する. 近年のMesoscaleで複数物質を扱える数値衝突計算によれば, このような複雑系では衝撃波伝播時に著しい圧力, 温度の空間不均質が生じることが示された[Bland+14, Nature Comm. 5, 5451]. 衝撃を受けた隕石, 月試料の分析結果のこれまでの解釈は見直しが必要であろう. 最も強い衝撃波に晒される高速度衝突の爆心地におけるエネルギー分配過程を実証的に調べることは, 太陽系天体の離合集散を解明するために必須である.
このような問題意識から我々は粉体標的の衝突爆心点を無飛散で回収し, その温度分布を計測することを試みた. 温度計測には熱残留磁化を利用した. 古地磁気分野で培われてきた計測技術であるが, 近年では衝突実験への応用が進みつつある[Sato, M. (2021) Geophysical Research Letters 48, e2021GL092716., North, T. L. et al. (2022) LPI Contrib. No. 2695, 6394.]. 実験には宇宙科学研究所に設置された縦型二段式水素ガス銃を用いた. 消磁した磁性鉱物を含む粉体標的を人工的に生じさせた磁場中に配置し, 垂直衝突させた. このとき混合した磁性鉱物が最高到達温度に対応する熱残留磁化を獲得する. 実験条件を最適化すると衝突クレータ中心におわん形状組織が残され, 少量ではあるが, 衝突直下点の物質を回収可能である.
回収したおわん形状試料を樹脂で硬化させ, 小片に切り分け, 東京大学に設置された超電導磁力計を用いて熱残留磁化を測定した. その結果, (1)飛翔体直径よりも短い空間スケールで温度が下がっていること, (2)衝突点最近傍の領域の最高到達温度は均質な空隙を含む物質のHugoniot温度よりも低く, むしろ空隙なしの結晶の場合に計算されるそれの値に近いことがわかった. 発表では薄片の顕微鏡観察結果も加えて, 粉体標的内の衝撃波伝播過程を議論したい.

Acknowledgments: This work was supported b yISAS/JAXA as a collaborative program with the Hypervelocity Impact Facility. This research was supported by JSPS KAKENHI Grant No. JP21K18660.