日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 太陽系物質進化

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:日比谷 由紀(東京大学 先端科学技術研究センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、松本 徹(京都大学白眉センター)、橋口 未奈子(名古屋大学)、座長:日比谷 由紀(東京大学 先端科学技術研究センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)


14:00 〜 14:15

[PPS08-02] 半閉鎖系蒸発・結晶化実験によるタイプ B CAI 形成における再凝縮の影響の評価

*鶴岡 靖朗1橘 省吾1 (1.東京大学)

キーワード:難揮発性包有物、溶融、蒸発、再凝縮、ダスト濃集、原始太陽系円盤

隕石中の難揮発性包有物 (CAI) は,原始太陽系円盤で形成された最古の物質である.タイプB CAIは円盤ガス中で溶融と結晶化を経験しており,その際にMgとSiが蒸発したと考えられている (Grossman et al., 2000; Richter et al., 2002; Richter et al., 2007; Mendybaev et al., 2021).タイプB CAIは,その組織の特徴から,メリライト (ゲーレナイト(Ca2Al2SiO7)–オケルマナイト(Ca2MgSi2O7)) のマントル構造を持つタイプB1とそれを持たないタイプB2の2つに分類される (e.g., Wark & Lovering, 1982).完全開放系の,低圧の水素ガス条件下でのCAIメルトの溶融–蒸発–結晶化実験 (Kamibayashi et al., 2021) により,水素ガス圧が1 Pa以上の場合,水素によって促進された蒸発による表面の組成変化が,内部拡散によるメルト組成の均質化に卓越し,表面でメリライトの結晶化が起こることで,タイプB1 CAIに類似した組織ができることが示されている.しかし,ダストの濃集領域では,再凝縮(逆反応)が起こることが予想される (e.g., Tsuchiyama et al., 1999; Ozawa & Nagahara, 2001).そのような場では,蒸発は抑制され (e.g., Richter et al., 2007),蒸発ガスの再凝縮による蒸発速度の変化が,メリライトマントルの形成条件や組成に影響を及ぼす可能性がある.原始惑星系円盤を模した環境下で再凝縮を制御した実験は,金属鉄 (Tachibana et al., 2011) を除いて行なわれておらず,CAIメルトに関して新たに行なう必要がある.本研究では,再凝縮反応がある条件下でCAIメルトの溶融–蒸発–結晶化実験を行ない,タイプB CAI形成に対する影響,及び,ダストの濃集度との関係を議論した.
CAIχ, CAIδ組成 (Grossman et al., 2002) のメルトの蒸発−結晶化実験を,真空炉 (Mendybaev et al., 2021; Kamibayashi et al., 2021; Takigawa et al., 2009) を用いて,水素ガス圧1, 10 Pa,最高温度1420, 1430°C,冷却速度5, 50°C hr-1で行なった.再凝縮を再現するために (Tachibana et al., 2011),一端を閉じた長さ10 mmと20 mmの白金製チューブ中で実験を行なった.比較のため,開放系での実験も行なった.実験前後には試料の重量を測定し,蒸発量を決定した.走査電子顕微鏡 (SEM; JEOL JCM-7000) と付属のエネルギー分散型X線分光法 (EDS) 装置を用いて,試料断面の組織観察と鉱物元素分析を行なった.
結晶化実験後の試料の組織は,冷却速度により異なり,チューブの有無による違いは見られなかった.5°C hr-1で冷却した試料には連続したメリライトマントルが,50°C hr-1で冷却した試料には不連続なマントルが見られた.一方,メリライトマントルの組成にはチューブの有無で違いが確認された.5°C hr-1で冷却した試料のメリライトマントルの組成は,チューブ中で加熱したものの方が,開放系で加熱したものより,オケルマナイトの割合が高く,Mg, Siに富んでいた.また,チューブ中で加熱した試料は,開放系で加熱したものより,実験前後の質量減少が小さかった.再凝縮により蒸発が抑えられ,表面付近でのMg, Siの枯渇が抑えられることで,オケルマナイトの割合の高いメリライトが結晶化したと考えられる.
本実験では,再凝縮による組織の違いは見られなかったものの,メリライトマントルの形成条件に再凝縮が影響することが示された.再凝縮の効果は,蒸発表面における蒸気の分圧により見積もることができ,蒸気の分圧は,ダスト濃集度と関連付けられる.本実験では,太陽系元素存在度に対して,100倍程度ダストが濃集した環境に相当する再凝縮の効果が再現された.今後は,本実験システムを用いて,さらに研究を進め,CAI形成領域のダスト濃集度および水素ガス圧にさらなる制約を与えることを目指す.