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[PPS08-06] Al-in-olivine温度計を用いたコンドルール鉱物晶出温度の高精度推定
キーワード:オリビン-スピネル地質温度計、原始太陽系円盤、コンドルール
始原的な隕石に含まれるコンドルールは原始太陽系円盤における物質の形成・進化過程を明らかにする上で重要な物質である。現時点で有力視されているコンドルール形成モデルの一つに衝撃波モデルが挙げられる[1]。このモデルは、星雲中で発生した衝撃波の通過によってダスト-ガス間に相対速度が生じ、その際に発生する摩擦熱などによってダストが高温に加熱・溶融・急冷することでコンドルールを形成するというモデルである。衝撃波モデルにおけるコンドルール前駆体の加熱温度は、形成領域におけるガス密度およびダスト-ガス間の相対速度に依存する[e.g., 2]。したがって、コンドルール前駆体の加熱温度を決定することで、コンドルール形成当時の円盤ガス密度等の知見が得られると期待される。
そこで本研究では、オリビン-スピネル共存関係から晶出温度を決定するAl-in-olivine温度計 [3, 4] を用いてコンドルール前駆体の加熱温度の下限値を推定した。コンドルール前駆体の加熱温度の時空間依存性を議論するため、Al-Mg年代 (CAI形成後180~300万年) と酸素同位体比 (−2.8‰ < Δ17O < 0.5‰, Δ17O = δ17O − 0.52 ×δ18O) 既知のコンドルールを分析した [5-9]。熱変成・水質変成の影響を最小限に抑えるため、岩石学タイプが3.05以下の隕石を試料として用いた。普通隕石であるMET 00452 (L/LL3.05)とNWA 8276 (L3.00)のそれぞれから2つずつ、炭素質隕石であるAcfer 094 (ungrouped C3.00)から5つ、DOM 08006 (CO3.01)から3つのコンドルール(計12個)についてEPMAを用いた元素組成分析を行った。スピネルの分析には国立極地研究所のJXA-8200、オリビンの分析にはウィスコンシン大学のSX-Five FEを用いた。推定温度の誤差は、複数のオリビン-スピネル共存関係が見つかったコンドルールについては推定温度値の2SEを採用し、それ以外はAl-in-olivine温度計の較正に伴う不確定性 (± 25 ℃ [3, 4]) を採用した。
本研究で分析したコンドルールはオリビン中のFo content = [Mg]/[Mg +Fe] の範囲が48~83であり、全てタイプⅡコンドルールに分類された。また、オリビン中のAl2O3濃度の範囲は0.018~0.155 wt%、スピネル中のCr# = [Cr]/[Cr+Al]の範囲は0.4~0.7であった。これらの情報からAl-in-olivine温度計を適用した結果、普通コンドライトのコンドルールと炭素質コンドライトのコンドルールのオリビン-スピネル晶出温度の範囲は、それぞれ1273 ± 25 ℃から1424 ± 25 ℃、および1218 ± 129 ℃から1349 ± 87 ℃であった。先行研究ではCV3隕石に含まれるタイプⅠコンドルールにおけるAl-in-olivine温度計を用いた晶出温度推定が行われており、本研究結果と比較して広範囲の晶出温度 (1200~1640 ℃) が示唆されている [10]。本研究によって得られた普通コンドライトに含まれるコンドルールの晶出温度は、先行研究で得られた温度の下限値 (1200 ℃)とおおよそ一致する。以上の結果から、CAI形成後180~300万年の時期に太陽系の内側・外側領域においてコンドルールの前駆物質を1200℃以上まで加熱するようなメカニズムが存在したことが示唆される。発表では、コンドルール前駆体を1200℃以上まで加熱するために必要なガス密度の時空間分布について議論する。
References: [1] Desch et al (2012) MAPS 47, 1139-1156. [2] Iida et al (2002) Icarus 153, 430-450. [3] Wan et al (2008) Am. Min. 93, 1142-1147. [4] Coogan et al (2014) Chem. Geol. 368, 1-10. [5] Ushikubo et al (2013) GCA 109, 280-295. [6] Hertwig et al (2019) GCA 253, 111-126. [7] Siron et al (2021) GCA 293, 103-126. [8] Siron et al (2022) GCA 324, 312-345. [9] Zhang et al (2022) Chem. Geol. 608, 121016. [10] Schnuriger et al (2022) MAPS 57, 1018-1037.
そこで本研究では、オリビン-スピネル共存関係から晶出温度を決定するAl-in-olivine温度計 [3, 4] を用いてコンドルール前駆体の加熱温度の下限値を推定した。コンドルール前駆体の加熱温度の時空間依存性を議論するため、Al-Mg年代 (CAI形成後180~300万年) と酸素同位体比 (−2.8‰ < Δ17O < 0.5‰, Δ17O = δ17O − 0.52 ×δ18O) 既知のコンドルールを分析した [5-9]。熱変成・水質変成の影響を最小限に抑えるため、岩石学タイプが3.05以下の隕石を試料として用いた。普通隕石であるMET 00452 (L/LL3.05)とNWA 8276 (L3.00)のそれぞれから2つずつ、炭素質隕石であるAcfer 094 (ungrouped C3.00)から5つ、DOM 08006 (CO3.01)から3つのコンドルール(計12個)についてEPMAを用いた元素組成分析を行った。スピネルの分析には国立極地研究所のJXA-8200、オリビンの分析にはウィスコンシン大学のSX-Five FEを用いた。推定温度の誤差は、複数のオリビン-スピネル共存関係が見つかったコンドルールについては推定温度値の2SEを採用し、それ以外はAl-in-olivine温度計の較正に伴う不確定性 (± 25 ℃ [3, 4]) を採用した。
本研究で分析したコンドルールはオリビン中のFo content = [Mg]/[Mg +Fe] の範囲が48~83であり、全てタイプⅡコンドルールに分類された。また、オリビン中のAl2O3濃度の範囲は0.018~0.155 wt%、スピネル中のCr# = [Cr]/[Cr+Al]の範囲は0.4~0.7であった。これらの情報からAl-in-olivine温度計を適用した結果、普通コンドライトのコンドルールと炭素質コンドライトのコンドルールのオリビン-スピネル晶出温度の範囲は、それぞれ1273 ± 25 ℃から1424 ± 25 ℃、および1218 ± 129 ℃から1349 ± 87 ℃であった。先行研究ではCV3隕石に含まれるタイプⅠコンドルールにおけるAl-in-olivine温度計を用いた晶出温度推定が行われており、本研究結果と比較して広範囲の晶出温度 (1200~1640 ℃) が示唆されている [10]。本研究によって得られた普通コンドライトに含まれるコンドルールの晶出温度は、先行研究で得られた温度の下限値 (1200 ℃)とおおよそ一致する。以上の結果から、CAI形成後180~300万年の時期に太陽系の内側・外側領域においてコンドルールの前駆物質を1200℃以上まで加熱するようなメカニズムが存在したことが示唆される。発表では、コンドルール前駆体を1200℃以上まで加熱するために必要なガス密度の時空間分布について議論する。
References: [1] Desch et al (2012) MAPS 47, 1139-1156. [2] Iida et al (2002) Icarus 153, 430-450. [3] Wan et al (2008) Am. Min. 93, 1142-1147. [4] Coogan et al (2014) Chem. Geol. 368, 1-10. [5] Ushikubo et al (2013) GCA 109, 280-295. [6] Hertwig et al (2019) GCA 253, 111-126. [7] Siron et al (2021) GCA 293, 103-126. [8] Siron et al (2022) GCA 324, 312-345. [9] Zhang et al (2022) Chem. Geol. 608, 121016. [10] Schnuriger et al (2022) MAPS 57, 1018-1037.