09:00 〜 09:15
[PPS08-11] 同位体ナノスコープを用いた局所希ガス分析法の開発
★招待講演
キーワード:SIMS、希ガス、質量分析
安定同位体を持つ希ガス(He,Ne,Ar,Kr,Xe)は岩石における存在量が極めて少なく [1],起源の違う物質中にそれぞれ異なる同位体組成をもっている.この特徴から,希ガスは惑星科学ではトレーサー元素として扱われることが多い.また,放射壊変等の二次的な付加によって元素比や同位体比の変動が大きいという特徴があるため,放射壊変起源希ガスや宇宙線照射起源希ガスを用いた年代測定も行われている.北海道大学に設置されている同位体ナノスコープ(LIMAS:Laser Ionization MAss nanoScope)と呼ばれる二次中性粒子質量分析装置を用いて,局所希ガス同位体分析の開発及び天然試料の分析を行ってきた.本発表では装置のインストールから最新の研究成果について紹介する.
従来の希ガス質量分析は磁場型の質量分析計を用い,静作動分析という特殊な手法により,定量的で高感度な希ガス同位体分析をおこなってきた [2] .ただし,試料の消費量は岩石だとngからg程度必要である.これは,上記のとおり,岩石中の希ガス濃度が極めて低いためである.そのため,二次イオン質量分析装置(SIMS)のような”マイクロビーム”を用いた分析はされてこなかった.加えて,希ガスは他元素に比べイオン化ポテンシャルが高いためSIMS分析には不向きであったことも理由の一つである.
そこで,Gaイオンビームを用いnmオーダーの空間分解能を有し,フェムト秒レーザーによるポストイオン化を行うことですべての元素をイオン化できるLIMASを開発した [3].2011年の装置インストール当初は希ガス分析に特化させる仕様ではなかったため,その後,様々な開発・改造を加えた [4–6].現在では,4Heの検出下限が2 × 1017 atoms cm–2(一次イオンビーム電流30 nAのとき),空間分解能が200 nm(一次イオンビーム電流1 nAのとき)ほどのHe局所分析が可能となっている.
装置開発に伴い,データ集録・処理システムの開発も並行して行っている.LIMASは飛行時間型質量分析計を搭載しているため,データ処理にCPUリソースが大量に必要であった.CPUのリソースを有効活用するためリアルタイムでのデータリダクションおよび,効率的なデータ保存プログラムを作成した [7] .
3年ほどの試行錯誤の結果,2014年にNASA Genesis計画で持ち帰ってきた,太陽風照射基盤の深さ方向分析に成功した [8].これを皮切りに,隕石中のHeイオンイメージング [9],月試料の太陽風深さ方向分析 [10],イトカワ粒子の太陽風深さ方向分析 [11]など,少しずつではあるが科学的な成果を積み上げることができている.Heイメージからはレゴリス堆積プロセスが明らかになり,太陽風深さ方向分析からは過去の太陽風の特徴の違いが明らかになった.このように新しい分析手法を確立することで,局所希ガス同位体分析を行い,太陽風の研究を進めてきた.今後は,定量性を向上させることで多元素同時の同位体分析を行い,太陽風を獲得した物質の同位体比についても議論ができるよう開発を進めていく.
従来の希ガス質量分析は磁場型の質量分析計を用い,静作動分析という特殊な手法により,定量的で高感度な希ガス同位体分析をおこなってきた [2] .ただし,試料の消費量は岩石だとngからg程度必要である.これは,上記のとおり,岩石中の希ガス濃度が極めて低いためである.そのため,二次イオン質量分析装置(SIMS)のような”マイクロビーム”を用いた分析はされてこなかった.加えて,希ガスは他元素に比べイオン化ポテンシャルが高いためSIMS分析には不向きであったことも理由の一つである.
そこで,Gaイオンビームを用いnmオーダーの空間分解能を有し,フェムト秒レーザーによるポストイオン化を行うことですべての元素をイオン化できるLIMASを開発した [3].2011年の装置インストール当初は希ガス分析に特化させる仕様ではなかったため,その後,様々な開発・改造を加えた [4–6].現在では,4Heの検出下限が2 × 1017 atoms cm–2(一次イオンビーム電流30 nAのとき),空間分解能が200 nm(一次イオンビーム電流1 nAのとき)ほどのHe局所分析が可能となっている.
装置開発に伴い,データ集録・処理システムの開発も並行して行っている.LIMASは飛行時間型質量分析計を搭載しているため,データ処理にCPUリソースが大量に必要であった.CPUのリソースを有効活用するためリアルタイムでのデータリダクションおよび,効率的なデータ保存プログラムを作成した [7] .
3年ほどの試行錯誤の結果,2014年にNASA Genesis計画で持ち帰ってきた,太陽風照射基盤の深さ方向分析に成功した [8].これを皮切りに,隕石中のHeイオンイメージング [9],月試料の太陽風深さ方向分析 [10],イトカワ粒子の太陽風深さ方向分析 [11]など,少しずつではあるが科学的な成果を積み上げることができている.Heイメージからはレゴリス堆積プロセスが明らかになり,太陽風深さ方向分析からは過去の太陽風の特徴の違いが明らかになった.このように新しい分析手法を確立することで,局所希ガス同位体分析を行い,太陽風の研究を進めてきた.今後は,定量性を向上させることで多元素同時の同位体分析を行い,太陽風を獲得した物質の同位体比についても議論ができるよう開発を進めていく.