日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 太陽系物質進化

2023年5月26日(金) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:日比谷 由紀(東京大学 先端科学技術研究センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、松本 徹(京都大学白眉センター)、橋口 未奈子(名古屋大学)、座長:川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、松本 徹(京都大学白眉センター)


09:15 〜 09:30

[PPS08-12] Northwest Africa 801隕石に含まれる金属鉄と水酸化鉄粒子の太陽風ヘリウムイメージング

*和田 壮平1馬上 謙一1圦本 尚義1 (1.北海道大学大学院 理学院 自然史科学専攻)


キーワード:太陽風、希ガス、イオンイメージング

隕石中の太陽風起源希ガスは,過去の太陽風を記録している。しかし,太陽風の侵入深さは粒子表面から約百ナノメートル以下であるため,隕石の希ガス濃度の平均値により過去の太陽風の研究が行われてきた [1]。近年,同位体ナノスコープ(LIMAS)が開発され,ナノメートルスケールでの希ガスイメージングが実現された [2]。この分析法により,太陽風起源希ガスが隕石中のどこにどれだけ保持されているかを研究できる可能性がある。本研究では,LIMASを用いたHeイメージングによって,ガスリッチ炭素質隕石の一つNWA 801隕石のマトリクス中の金属鉄粒子と,その周辺のHe濃度分布を測定した。He濃度の定量には検量線法を用い,標準試料として4Heを20 keVで3 × 1015 cm−2注入したFe-Ni合金を準備した。
NWA 801の金属鉄は,コンドリュールの内部またはその表面,およびマトリクス中に孤立した数µm–50 µmの粒子として産する。一部のFe-Niメタルは地球落下後の風化によって部分的,あるいは完全に水酸化鉄に置き換わっている。He空間分解能250 nmのイメージングによると,コンドリュールのFe-NiメタルからHe信号を検出できなかった。しかし,マトリクス中に孤立するFe-NiメタルからHe信号が検出され,それが風化した水酸化鉄粒子からも同程度のHe信号が検出された。一方,周囲のケイ酸塩物質からのHe信号は弱かった。この結果は,隕石中の金属粒子の太陽風起源Heの保持力が,ケイ酸塩粒子よりも高いという研究 [3] と調和的である。
金属粒子のHeは粒子の縁(空間分解能250 nmの範囲内)だけから検出された。これは,現在の太陽風Heの金属鉄への飛程が約20 nmであることと調和的である。個々の粒子に直接太陽風が打ち込まれた場合,粒子の極表面にのみHeが存在することになる。Heイメージング結果は,粒子中のHeが太陽風起源であることを示している。求められたFe-Ni金属粒子中の最高He濃度は,7 × 1020 cm−3なので, NWA 801隕石中の4Heは局所的にバルク濃度 [4] の2000倍以上の濃度で偏在している。このHe分布からこの金属鉄への太陽風Heの照射量は1 × 1016 cm−2であったことが計算される。また,水酸化鉄粒子中のHe分布が金属鉄粒子中のHe分布と同じであることは,金属鉄粒子の太陽風He分布が,地球上の風化による酸化に対して耐性があることを示している。

References: [1] Wieler (2002) Reviews in Mineralogy and Geochemistry 47. [2] Bajo et al. (2016) SIA 48, 1190–1193. [3] Becker and Pepin (1991) EPSL 103: 55–68 [4] Obase et al. (2021) GCA 312: 75–105.